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一晩も経てば、すっかり洞窟の穴は滝つぼの底となっていた。
満々と流れ落ちる流れはその後、オークを一匹たりとも逃がさなかった。これでこの一帯の穴は塞がれた。当分は他の道を探すしかないだろう。
スウェルとエルフの兵は逃げ延びようとしたオークらを一匹残らず討ち果たした。
スウェルは最後の一匹を斬り捨てると、部下を振り返り。
「城の様子はどうだ?」
「は。なんとか持ちこたえた様子です」
「そうか…。ここはもういいだろう。だが見張りは怠るな。ここに限らず、周囲に斥候をおけ。他の者は一旦、城に帰還する」
「分りました」
これでようやく、タイドに会える…。
スウェルは、今は満々と水を湛える谷を見下ろした後、その場を後にした。
しかし、その谷の反対側、森に身を潜めるものがいた。
『あいつだ…。あいつが…俺の父を、弟を殺した!』
オーク独特の言葉を、人が理解することは難しい。
エルフはかろうじて判別ができたが、それも捕らえたオークを尋問するときに分ればいいくらいで、完璧に理解しようとするものはいなかった。
だいたい、尋問したところで、悪態をつくばかりでろくに会話など成り立たないのだ。オークの言葉など理解する必要がなかった。
だが、今もし、この言葉を聞いていたなら、その危機をもう少し早く察知することができただろう。
『奴に復讐を!』
薄暗い茂みに身を潜めたオークは、怒りに身を震わせる。
他のオークより抜きんでて筋骨流々としていた。身体には無数の傷跡があり、右腕はない。左目の上にも無惨な切り傷があり、つぶれていた。
だが残された右目はギラギラと強い光を放ち、立ち去る銀色の髪を持つエルフに注がれていた。
『復讐を!』
エルフ達が去った後、一匹のオークが咆える様に、もう一度叫んだ。
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