神様万来

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
「店長どうしたんですか そんな怖い顔してスマホ睨んで」 「いや天気予報が不気味でな ドカ雪が降りそうで怖いんだわ」 「じゃあ帰りましょうよ こんなゲーセン誰も来ませんて」 「いいや今日だけは忙しくなるぞ 給料増やすから残業頼めるか?」 「え~ もしも電車止まったら帰れないじゃないですか」 「だからだよ それと誰が来ても驚くなよ? 今日はいつもの100倍忙しいぞ」 店長の読み通り雪は強まって降り積もり交通網は完全に麻痺 電車は止まり道路も大渋滞 ホテルやカラオケに漫画喫茶は帰宅難民で大賑わいだ しかしここは寂れたゲーセン いつも閑古鳥が鳴いているし、輪をかけて誰も来ないだろうと思っていれば 神様がいっぱい訪れた 大きな白蛇 美しい狐 よくわからない黒い何か まるで雪と寒さから逃げるように続々と入店してくる 「店長なんですかコレ」 「見ての通り神様だよ こういう雪の日は御社にいるのも厳しいから避難してくるんだ」 「そんな当たり前みたいに言われても」 「ふっふっふっ 実はここ、ゲーセンに偽装した神様の避難所なんです」 「そんな馬鹿な」 「いいからとりあえずホールに立って 神様達はわからないことだらけだから優しい接客を心がけるんだよ」 「もしも何か失礼な事を言ってしまったら?」 「親族一同呪われるね」 「すみませーん!店員さーん!!」 「ほら早速呼ばれたよ 頑張って行ってらっしゃいな」 恐ろしい発破をかけられてオズオズと向かえば、メダル購入機の前で1匹の狐が困っていた 「ゴメンなさいね店員さん なんだかお金が詰まっちゃって」 「かしこまりました ちなみにどんなお金を入れましたか? 千円札とか、500円とか」 「??? なんかわかんないけどお金はお金よ?」 そう言って渡されたお金には寛永通宝と刻まれていた 驚きで固まりどう返そうか悩んでいれば、コチラを困らせる気は一切ない純粋無垢でカワイイ瞳に見つめられる 「おそらくこの機械の不具合かと思いますので、開けるための鍵を取ってきますね」 どうにも手に余るので店長の元へ全力ダッシュ 寛永通宝一枚を何円に換算して何枚のメダルに交換すればいい 店内を見渡せば店長はのんきに格ゲーをしていた 「店長!!助けてください!!」 「見ての通り格ゲー中だ 周りの神様に教えているからちょっと待て」 「寛永通宝って現代レートでいくらですか!?」 「何円でもいい とにかく望むだけ大量に与えてやれ 面倒だから両替機とか全部使用禁止で電源抜いといてくれ」 「望むだけでいいんですね!?」 「構わん!! とにかく今日は赤字だろうと構いやしない もう少し経てば助け船が来るからそれまでどうにか持ちこたえるぞ」 「お待たせしました やはりこの機械調子が悪いみたいですね こちらがメダルになります」 「うわっ!! こんなにいいんですか!?」 「えぇもちろん ぜひお楽しみください」 とりあえずカップ山盛りのメダルを渡して納得してもらった 本当はメダル購入機の中を開いて寛永通宝を取り出さないといけないが後回しだ 「すみません店員さーん!!」 次はプリクラで呼ばれている 「ねぇこれどうなってるの? 私の姿が映らないんだけど」 「はぁ……かしこまりました 詳しい者に聞いてまいりますので少々お待ちください」 今度は店長に頼らず解決しよう!なんて思っていたがもう無理だ 早々に諦めてまた全力ダッシュ だってあれ煙だもん 黒い靄みたいな何かはそりゃあ映らないよ 店長はのんきにクレーンゲームで遊んでいた 「店長!!助けてください!!」 「見ての通りクレーンゲームの設定変更中だ 無料で何度でも遊べるようにしてやらんとな ちょっと待て」 「煙を映すプリクラはありますか!?」 「あっ!しまった裏設定にしてなかったか えーっとな、この鍵を刺し込むと管理画面が開くから、そこでバンキョウモードを起動してくれ」 「バンキョウモード??」 「万物を映す鏡で万鏡モードだ これが終わったら俺も向かうから!」 鍵だけ渡され送り出されて急いで戻る 言われた通りに鍵を刺し込めば赤く禍々しい管理画面がポップアップし デカデカと書かれた“万鏡猛怒”をヤケクソで叩く するとプリクラ機に煙ではなくハッキリとした日本刀が映し出された 「お待たせしました コチラで問題ないでしょうか?」 「おおっ!バッチリだよ いや~ありがとね~」 顔の無い日本刀になんとなく微笑まれた気がする とにかくこれで一段落 こんな機能があるならば、いつもの暇な日常の時に教えて欲しかった 何もかもわからない事だけでクラクラする ニヤニヤと笑いながら寄ってくる店長を恨めしく睨んだ 「お疲れさん いやぁ準備不足で迷惑かけちゃったね」 「店長 マジで今日の時給弾んでくださいね??」 「もちろんしっかり倍増するよ それよりもほら、あの人達が来たから一安心だ」 そう言って入り口を指差せば、防寒具に身を包んだドクロ顔がゾロゾロとやってきた 「店長 あの人達も神様ですか?」 「死神様だよ 地獄へ帰る電車もこの雪で止まってしまってね ここで一晩過ごすのさ」 「でも死神って黒いローブと長い鎌のイメージですけど」 「あれは正装 流石に冬は寒さが骨の芯まで沁みて仕事にならないから、あぁして完全防寒スタイルになる」 「にしてもどうして死神様が来たら一安心?」 「彼等は地獄で働くサラリーマン 現世の知識も豊富だし、我々店員の立場もよくわかってる だから自然と他の神様のサポートをしてくれるし、力も強いから万が一の荒事も止めてくれてね」 「つまりはバイトのヘルプが来てくれたと」 「わかりやすく言えばそんな感じさ さぁあともうひとふんばりだ、頑張るよ!!」 最初こそ慌てたものの機械の設定が終われば少しずつ落ち着き、店長の言う通り死神様がサポートしてくれて大いに助かった 狐の神様も全て同じにしか見えなかったが個体識別がつきはじめ 黒い靄にしか見えなかった物もハッキリとその正体が見えるようになりはじめた頃 ようやく夜が明けた 一晩中降り続いた雪もいつの間にか止んで 神様達もポツポツと帰宅 「……店長 あがっていいですか」 「お疲れ様 もちろん帰ってゆっくりしなさい なんなら今日は休んでいいから」 「ありがとうございます 機械の設定方法とか、今度は全部しっかり教えてくださいね」 「じゃあ1つだけ このゲーセンは一般人に見えません 神様の避難所だからある程度霊能力のある人じゃないと入れないんだ」 「でも私普通に見えたし働いてますよ」 「だから気づいてないだけで、ホントはしっかり霊能力者」 「やったー うれしー」 「そんな逸材を逃したくないから、普通のゲーセンだと言い張ってたのさ」 「暇で時給が出るなら一番 逃がしませんよこんな優良店」 「アッハッハッハ そんな図太さと今日の頑張りに免じて良い事を教えよう 帰り際に宝くじを買うといい」 「宝くじ?」 「いま僕達は全身にいろんな神様のパワーがついている いわば強運状態さ だから宝くじでも買えば、一等は無理でもそれなりの物が当たるはず」 「ホントに?もし当たっても店長には一銭も渡しませんよ」 「せびる気はないから安心してくれ その代わりウチを辞めないでくれよ?」 「だからこんな優良店辞めませんよ なんだかんだ楽しかったです 良い思い出になりました」 まるで夢のような一晩だった 神様達を接客したなんていまだに信じられない そんなフワフワした気分だからこそ、オカルトも試してみようかな 雪が積もり歩きにくいのにわざわざ寄り道して宝くじ売り場にやってきた 狙うはウィンターメモリースクラッチ2024 一等は狐が3枠揃えば100万 やってやる 狐なんて個体識別できるほど見たんだから3匹揃えるのなんて楽勝だ 意気揚々と買ってさぁ削るかと意義こんだその時 ふと思い出した いま寛永通宝持ってるんだ 神様が持っていた古銭なんてとんでもないパワーだろう 逆にこんなのに使うのはちょっと失礼な気もするがまぁいいや えぇい!当たれ!! 願いながらゴシゴシと削れば――
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!