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東京にはほんとうにめったに雪が降らないんだな、と引っ越してから一年ほど経った最初の年の冬、あたしは驚いた。
うんざりするほどあんなにどかどかと降っていた雪が、こちらではひどく珍しいもの扱いされている。ましてや、ロマンチックな存在のように思われていたりして驚いてしまう。
白一色の冬の景色はどこを探しても見当たらない。カラフルな看板や街の灯りの中に空白を見つけ出すことのほうが難しい。
たくさんの情報や色に疲れてしまって、目を休めたいなと思った頃、大也から荷物が届いた。クール便で届けられたそれは、小さな雪だるまだった。
「ほんとうに送ってきた……」
眉毛の凛々しい雪だるま。その上に添えられたメモ用紙のような紙に、大也の字が書かれている。ほんの一年ほどしか離れていないだけなのに、ひどく懐かしい。
『溶かして処分して』
手紙とも言えないような、それだけの文章。
「……できるわけないじゃん」
生活をおびやかして邪魔にしか思っていなかった雪が、今は恋しくて仕方ない。大也があたしのために作ってくれたこの子がものすごく可愛い存在に思えて、ひんやりとした雪だるまをそっと抱きしめた。
「ここなら、溶けないよね」
あたしは家の冷凍庫に大也の雪だるまを入れた。ずっとそばにいてよ。あの頃の大也のように。
ぱたんと扉を閉じて、そう願った。
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