雪だるまレター

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    *  次の年も、雪だるまは送られてきた。去年までと違うのは、手紙の文章が少し長いこと。 『大学、合格しました。  雪だるまを溶かしてから、会いに来て』  東京に来る日程と場所も書いてある。もちろん会いに行きたいけれど、会いたいけれど。 「溶かせるわけないって言ってるのに」  本人に言ってはいないけれど、そんな不満が口をついて出る。この雪だるまがあたしにとってどれだけ大切か、かけがえのないものなのか、大也はわかってない。  あたしのために雪だるまを作ってくれた大也の想いが込められている。それが妹に対するような気持ちだから、たやすく壊してくれなんて言うのだろう。受け取ったあたしにしてみれば宝物のようなものなのに……。  大也との待ち合わせ当日の朝、あたしはずっと冷凍庫にしまっていた雪だるま三体を取り出した。  そんなに処分しろっていうならそうしてやる、と半ば腹が立っていた。このくらい軽く捨てられると思っているんだろう、じゃあそうしてやるぞざまぁみろ、という感じだ。なにがざまぁみろなのか、よくわからないけれども。  冬の終わり、春も近づいた日の太陽は、ずいぶんとあたたかくなっていた。日当たりのいい場所を探して雪だるまを並べる。  柔らかな日のもと、大切にしていた雪だるまが溶けていく。  ――と。 「……なに? これ」  溶けだした雪だるまの胴体の中に、ピンク色の紙が埋まっていることに気付いた。溶けて崩れはじめた雪だるまの中から紙を引っ張りだす。  そこには一文字「き」と書かれている。 「き?」  疑問符を口に出してからはっと気づいた。これは二年目の雪だるまだ。 (この間届いたの子の中にも、なにかあるの?)  となりで溶けて崩れた雪だるまの中にも、やっぱりピンクの紙が埋め込まれていた。  そこに書かれた文字は「だ」 (最初の雪だるまは――!?)  慌てて一番古株の雪だるまの胴体を探る。  ピンクの紙に書かれた「す」の一文字。順番に並べてみる。 「す」「き」「だ」  今年の分の雪だるまの紙の裏面には、さらに別の文章も書かれていた。  ――俺と付き合ってください。  あたしはたまらなくなって、駅に向かって駆け出した。
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