彼は変わり者

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 新学期が始まる頃、学校脇の桜の木は満開に咲き誇り、気温もぽかぽかと気持ちのいい暖かさを運んできた。  コートもマフラーも手袋も、もう要らない。  そのかわり、花粉の舞い踊るこの季節はマスクが外せない。  いつもの通学路。  坂道を登るために曲がったあたしの視界に入り込んできたのは、えんじ色のパーカー。  前を歩く男子生徒が、えんじ色のパーカーを羽織っていた。  今日は風もあるし、じっとしているとまだ肌に当たる風は冷たさが残る。  でもさ、あの雪のことを思えば、こんな寒さなんて寒いとは到底言えない。 「おはよう、ユキナ!」 「あ、アイ、おはよう。ねぇ、あれってさ……」  声をかけてくれたアイに、前を歩くパーカーの男子を指差す。 「あー、ガクくん?」 「だよね⁉︎ そーだよね⁉︎」 「変わってるよねー、彼。まぁ、どうでもいいけど」  すぐに前を歩き出すアイに、あたしは付いていきながら、頭の中でなんで? がぐるぐる回っている。  春になって、ガクくんはパーカーを着て登校していた。  真冬の寒さの中ではマフラー一つだったのに。だったらせめて、そのパーカーを着ていたら良かったじゃん? なんで? なんで今なの? あの寒さを学ラン一つで耐えれたなら、このあたたかさは真夏並みじゃない? 暑くないの?  あたしは、心の中で彼にものすごいたくさんの疑問を投げかけ続ける。 「あー、なんで冬にマフラーしかしないのか、すっごく気になる!」 「え? いまさらじゃない?」  アイがあははと笑う。  確かに。  もう彼はマフラーをしていないし、ツッコむなら雪の日の彼に突っ込むべきだった。  あたしはグッと疑問を飲み込んで歩き出す。 * * * 「……って言う男子がね、高校の頃いたのよ」 「……へぇー」  外は昨日から降り積もった雪で真っ白な世界。今だに降り止む気配はない。 「雪を見ると思い出すのよね」 「……へぇー」 「さっきから、へぇーしか言ってない」 「だって、俺の前で過去の男の話しないでよ」 「え! いや、別にあたしその人とは何でもなかったし」 「でも、そうやって気になってたってことは、好きだったんじゃないの?」 「……え?」  好き?  真冬にマフラー一つで歩く、あの彼のことが?  まさか。 「変わってる人だったから、印象に残ってるだけだよ」 「そう? なら良いけど。俺は寒がりだからそんなことは絶対しないし。ユキナにあっためてもらうっ」 「え⁉︎」  ギュッと抱きしめられて、思い出して寒くなった体感が上昇していく。  なんでもないことなのに、あたしは雪を見ると思い出す。変わり者の彼のことを。
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