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誕生日 4話
温泉旅行を計画したのは左京なので、行き先も秘密にされていた。
着くまでのお楽しみ、と言われたが、
「温泉と、サウナもあるって」
と、それだけは教えてくれた。
蘭がサウナ好きなのも知っているので、選んでくれたのだろう。
楽しみだなぁ。
大好きな人と出かけるのは、いつだってウキウキする。
ドライブも楽しくて、途中で休憩したり寄り道したりしながら、ゆっくりと目的地へ向かった。
+ + +
夕方前に到着したのは、高級旅館の隣にある、ガーデン付きヴィラだった。
左京が高級旅館の方で受付を済ませ、ヴィラ専用の駐車場に車を停める。
今までヴィラに泊まったことは何度かあるが、恋人と泊まるのはもちろん初めてだ。
別荘のような、小さな家を一軒貸し切った造りで、高い塀で囲まれている。
外からは見えないようになっているので、安心して寛げる空間になっていた。
「うわ~、すげぇ!」
入口のドアを開けて中に入ると、まず庭が広がっている。
右側が庭、左側に住居があった。
庭には木が何本か植えてあり、木製の樽のような形をしたサウナと水風呂、リゾートチェアが並んでおいてある。
サウナの外観も、思ったより大きいので、左京と二人で入れそうだ。
左側は建物で、露天風呂とデッキテラスがあり、リビング部分は壁ではなく大きな窓になっていた。
リビングも、ナチュラルなインテリアで統一され、大きなソファーと、小さいローテーブルがある。
リビングのソファーに座りながら、庭が存分に眺められる造りだ。
デッキテラスがあるので、露天風呂やサウナに入った後、ここで寛ぐこともできる。
「すっげぇ」
蘭は感嘆して、左京を見上げた。
「左京さん、ここすごいね」
「気に入った?」
「うん」
蘭が頷くと、左京がホッとしたように笑う。
「せっかくの誕生日だから、プライベートで過ごせるところを探したんだ」
たしかに、ここならホテルや旅館と違って、独立しているので他の宿泊客に会うことはない。
他の宿泊客の騒音も聴こえないし、ひと目を気にすることなく、ゆっくり過ごせる。
「荷物、リビングに置こうか」
左京が、トランクから下ろしたスーツケースと小さいバッグと一緒に、リビングへ運んでくれた。
それをみて、蘭はつい口元がゆるむ。
左京はいつも、さりげなく荷物持ちをしてくれる。
蘭は女性じゃないので、そこまで気を遣わなくてもいいのに。
気がつくと、重いものや荷物は率先して運んでくれるのだ。
そういうとこ、紳士的でカッコいいよなぁ。
蘭も左京のスマートさを見習いたいと、密かに思っているところだ。
左京に続いてリビングに上がると、可愛いインテリアの台にガラスの花瓶が置いてあるのに気づいた。
だが、中身はからっぽ。
インテリアとして飾っているようだった。
蘭はソファーに腰を下ろして、ひと息つく。
ソファーの背もたれは低く、クッションが四つおいてある。
足元にはカーペットが敷いてあって、温かい。
よく見ると、床暖房のようだ。
「へえ。冬でも温かくしてあるんだ」
開放感のある造りだが、まだ冬の名残で、寒い日も続く。
今は太陽の日差しで暖かいが、夜は冷えそうだ。
陽が落ちる前に、とりあえず温泉とサウナを楽しみたい。
「左京さん……あれ?」
風呂に入ろうかと思ったが、左京の姿が見えない。
スーツケースは壁際に置いてある。
「左京さん?」
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