誕生日 5話

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誕生日 5話

ソファーから立ちあがって、他の部屋を捜しに行く。 リビングの奥がパウダールームで、露天風呂の方に続いている。 露天風呂も広くて、二人で入っても余裕だ。 そこから、庭にあるサウナも見えた。 樽を横に倒したような形で、外には水風呂が見える。 芝生になっているので、風呂から上がって、そのまま裸足でも歩いていけるだろう。 左京を捜していたはずが、サウナが気になる。 ウッドテラスに降りると、外用のサンダルが置いてあったので、それを履いてサウナに移った。 サウナは、すべてヒノキで造られているようだ。 ヒノキの香りに期待を膨らませ、木製のドアを眺めた。 ドアの真ん中はガラスで、中が見えるようになっている。 ドアを開けると、サウナストーンが積まれているのが見えた。 左右には、段違いのベンチが備え付けてあった。 「うわ、めっちゃ楽しみ」 思わず顔がにやける。 サウナ用のアロマも持ってきてよかった。 後で左京と二人で入ろうと思い、リビングへ戻る。 「あ、左京さん!」 「蘭」 いつの間にかリビングにいた左京が、笑顔で呼びかける。 左手に何か持っているようだが、背中に隠れて見えない。 不思議に思いながら左京の下へ行くと、ニコニコと笑顔で見つめてきた。 「左京さん、どこ行ってたんだよ」 「うん、ちょっと」 そう言いながら、左京は背中に隠していた左手を、スッと前に出した。 「あっ!」 差し出されたのは、ピンクのバラの花束だ。 30本ほどあり、どれも綺麗に咲いて美しかった。 「蘭、誕生日おめでとう」 左京が両手で花束を持って、蘭に差し出す。 「あ、ありがとっ」 受けとりながら、蘭は口元をほころばせた。 花束にはメッセージカードが添えてある。 ――愛する蘭へ。誕生日おめでとう。最高に幸せな日になりますように。 左京の手書きのメッセージだ。 蘭は、目頭が熱くなって、目を瞬かせる。 花束に顔を寄せて、香りをかいでみた。 バラの、とてもいい香りがする。 それだけで、幸せな気持ちになった。 誕生日に花束をもらうなんて、初めてだ。 「すごく綺麗。嬉しい」 左京を見あげると、左京がニコリと微笑む。 「これから毎年、蘭の歳の数だけ、花束を贈るね」 言われて、34本あるのだと気づく。 花束の本数まで考えて、演出してくれたのだ。 旅行の計画をしてくれただけで十分に嬉しいのに、こうやって素敵なプレゼントまで準備してくれる。 左京のこういうところが、大好きだ。 「そのままだと枯れるから、花瓶に活けよう」 「あ、だから花瓶があったんだ!」 花束に花瓶と、きちんと用意しているのに驚いた。 左京は得意そうな顔で、バラの花を指で撫でる。 「これは、俺が活けてあげる」 「左京さん、できんの?」 「もちろん。ちゃんと習ったから心配しないで」 わざわざ活け方まで習ってくれるなんて、左京の細やかな心遣いが嬉しい。 さっそく左京が、用意してあったガラスの花瓶にバラを活ける。 その様子を、眺めているだけで楽しかった。
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