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誕生日 6話
ピンクのバラがリビングに飾ってあると、それだけで華やかだ。
良い香りもするし、気分が上がる。
「家に持って帰っても、しばらくは持つはずだから」
「ありがとう、左京さん」
蘭が礼を言うと、左京が微笑む。
家のリビングに飾れば、誕生日が終わっても、バラの花を見るたびに嬉しい気持ちを思い出せる。
ソファーに座ってバラを眺めていると、左京が隣に座った。
「バラ、気に入った?」
「うん!」
左京の肩に寄りかかって、頬にキスをした。
二人きりなら、蘭も恥ずかしがらずに、遠慮なく左京に触れられる。
「蘭」
左京が頬を緩ませて、嬉しそうな顔をした。
「まだ、プレゼントがあるよ」
「え?」
そう言って、左京が手提げ袋を渡してくる。
ヴェルトスのロゴが入っているので、おそらくアクセサリーだろう。
「旅行もプレゼントしてくれたし、バラまでもらったんだから、もう十分だよ?」
蘭は本心から、左京に伝えた。
素敵なヴィラで、左京と過ごせる。
その時間だけで十分幸せだし、満足している。
だけど左京は、首を振った。
「たったそれだけなんて、俺が納得できないよ」
「えー、でもさ」
「せっかく蘭の誕生日なんだから、受け取ってもらわないとね」
左京はニッコリ笑うと、手提げ袋を蘭の手に握らせた。
やや強引に思えるが、左京がそうする理由に心当たりがある。
普段の蘭は、左京からの贈り物を遠慮して受け取らない。
欲しいものは自分のお金で買うのが当たり前だし、高価なものは必要ないからだ。
左京から「買ってあげようか?」と言われるたびに、ずっと断り続けてきた。
だから左京も、あまり口にはしなくなったのだが……。
今日は、蘭の誕生日だ。
お祝いだからと強気でこられては、蘭も断りにくい。
それに、左京が蘭のために考えて、選んで用意してくれたものだ。
その気持ちを汲んで、素直に受け取るのが、今日の蘭の役目だと思った。
「ありがと、左京さん」
「うん。開けてみて」
左京がワクワクした顔で、開封を促す。
蘭の手元をのぞき込むので、ちょっと恥ずかしかったが、蘭は袋から箱を取りだした。
「二つあるよ?」
「うん。二つとも、蘭へのプレゼント」
大きさの違う正方形の箱が二つ入っていた。
上品なボルドーの箱に、ヴェルトスのロゴがある。
おそらく、ネックレスと指輪だろう。
それぞれ、金と銀の細いリボンが巻いてあってオシャレだ。
蘭は、銀のリボンが付いてる大きい箱から開けてみた。
ドキドキしながら、リボンをほどく。
箱を開けると、見慣れたネックレスがおさまっていた。
リング型のトップが特徴的な、ヴェルトスの定番ネックレス。
色はホワイトゴールドで、左京が身につけているのを見たことがある。
「これ定番のやつだよな?」
「そう」
「左京さんも、同じの持ってた気がするけど」
「俺のと同じだよ」
やはり、同じものらしい。
「なんで?」
「蘭によく似合うから」
「えっ?」
左京はニコニコと答えるが、蘭はヴェルトスのネックレスなんて一つも持ってない。
だから「よく似合う」と言われたのが不思議だったが、すぐに思い出した。
「あっ、前にデートで試着したときの、覚えてたんだ?」
まだ左京と付き合う前の話だ。
ヴェルトスのショップに寄って、左京の前でネックレスをいくつか試着したことがあった。
あの時は、上品すぎる気がして似合わないと思っていたのに、左京がやけに不満げだったのを覚えている。
「覚えてるよ。だって、すげぇ似合ってたのに、蘭は乗り気じゃなかったから」
「いや、だってさ。オレはカジュアルな服が多いし……左京さんの方がずっと似合うと思ってたから」
きれいめの服装の方が似合う、アクセサリーだ。
今日のファッションにだって、こんな素敵で上品なネックレスは合わない。
だが左京は、にこやかに笑った。
「ゴールドの方が華やかでよかったけど……蘭は、こっちの色の方が、普段使いしやすいだろ?」
「まあ、それはそうだけど」
同じ定番ネックレスのゴールドも試着したが、そっちはちょっと派手だなぁと思った記憶がある。
左京も、それでホワイトゴールドを選んだのだろう。
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