誕生日 7話

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誕生日 7話

しかし、左京の思惑は、蘭の想像を超えていた。 優しく微笑み、蘭の頭を撫でながら、囁くように言う。 「蘭とお揃いのアクセが欲しかったから、受け取って?」 「!? う、うん……」 カァッと頬が熱くなった。 結婚指輪のときだけで満足したと思っていたのに、ここでもまた「お揃いが良い」とか言い出す。 それにときめく自分が、恥ずかしくなった。 顔を赤くしたまま、さりげなく視線を逸らす。 「こ、こっちのも、開けるよ」 誤魔化すように、もう一つの箱を手にとる。 金色の細いリボンを外して、箱を開ける。 そちらは、思った通り、リングがおさまっていた。 ヴェルトスのロゴが刻印されたゴールドリングで、結婚指輪に選んだものより幅もある。 ヴェルトスのファッションリングだった。 「すごい」 初めて見るデザインで、すごくオシャレなので、まじまじとみてしまう。 「こっちは新作」 「そうなんだ?」 「サイズは、蘭の人差し指に合わせてあるから、つけてみて」 「え、いま?」 「サイズ合わなかったら、替えてもらうから」 左京がまじめな顔で言うので、うなずいた。 指輪って、サイズ交換できんのかなぁ? 蘭は不思議に思ったが、言われるまま、ケースから指輪を取りだす。 右手の人差し指にはめると、ぴったりだった。 「左はつけられる?」 「待って。んー、左もへーき。どっちもいけるよ」 「よかった」 左京がホッとした顔になる。 「蘭は、やっぱりゴールドもよく似合うよ」 「そう?」 「うん。ファッションリングなら、好きな時に着けられるし、蘭のアイテムにして」 気軽な感じで言ってくれるが、これだって数十万円はする代物のはずだ。 金銭感覚の違いは今さら。 これくらいのささやかなプレゼントで済んで良かった。 新車じゃなくてよかった……! この前の左京の本気を、なんとか躱せたことにホッとする。 金持ちって、スケール違うから、マジで気をつけないとな。 内心でそんなことを思いながら、蘭は左京を見上げた。 「ありがと、左京さん」 蘭は着けた指輪を左京に見せて、微笑んだ。 「指輪もネックレスも、大事にするね」 「うん」 左京が嬉しそうな笑みをみせるので、蘭は手を伸ばして、抱きついた。 「ん? 蘭、どうした?」 「オレ……左京さんと、こうやって二人で過ごせる時間が、いちばん幸せ」 「っ、俺もだよ」 左京がギュッと抱きしめてくれる。 蘭は、心を込めて礼を伝えた。 「オレのために、色々用意してくれてありがとう」 「そんなの当たり前だろ? 蘭の誕生日なんだから」 「ふふ」 年度末で忙しいはずなのに、蘭の為に時間を作ってくれた。 本当に、それだけですごく嬉しいのだ。
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