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家のうらの一坪畑で、草むしりしていると、
「こんにちは」
と、声をかけられた。
顔をあげると、畑のそばを通る道路に、野田さんの奥さんが立っているのだった。
「あら、野田さん、おひさしぶり」
「ほんと、おひさしぶりね。今日はいいお天気ですねえ」
「そうですね」
わたしは草むしりの手をとめて、立ちあがった。
空は一面の雲におおわれている。もうじき雨がふるのか、風が湿っている。その湿り気が、肌にここちよかった。
夕暮れ時である。この小さな町の、古い住宅街の裏通りには、ほかに人影はなく、通る車もない。
「あらあ、かわいい。ペットのお散歩ですか?」
と、わたしは腰を少しかがめた。
野田さんは、リードにつないでペットをつれていたのだ。
ペットは確か牝だったと記憶している。いま、ピンク色のかわいらしい洋服を着せられているから、間違いないだろう。
ただ、かわいいのは服だけで、ペットそのものは、小太りだし、少し生意気な感じがして、かわいいとは思えなかった。
むしろ、わたしがそのペットを見て感じたのは、
おいしそう――。
ということだった。
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