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アラームはつけたとおりに鳴った。日の出前。学校は休みだけど、今日は早く起きないともったいない。
パジャマのまま、窓を開ける。予報どおり。白い。草木を道を車の屋根を雪がおおっている。
「雪だ。雪だぞ」
どうやら、アラームの必要はなかったみたい。お父さんがどたどたと、子ども部屋にはいってきた。最初から子ども部屋にいるべきはお父さんなんじゃないの。そんな皮肉は飲みこむ。
「さむい」
小学生の妹ははがされかけた布団にもぐりこんだ。中学生の私と違って、空気を読むなんてしない。うらやましい。
「起きろ。早くしないと、溶けるぞ」
「うるさいな」
「あ? うるさいとはなんだ。親にむかって」
お父さんの瞬間湯沸し器が沸騰しだしたのが、私にはわかった。このままでは、せっかくの今日が台無しになる。
「もう置いてこう。二人で溶ける前に行こうよ」
とっくにダウンを着た私は、弾ける笑顔を見せた。この笑顔が見たいんでしょ?
「まあ、そうだな」
納得いかないのか、お父さんはごにょごにょ不満をもらしながら、私と外へとむかった。
「よし、雪だるまを作るか。こうやって、転がして、どんどん大きくなるんだ。二つ玉を作って、それを重ねよう」
「うん。わかった」
朝日が昇り、光が強くなってくるまで、互いにもくもくと雪玉を転がして、大きくしていった。
「そろそろ戻るか」
一汗かいてすっきりした顔で、お父さんと私は雪だるまを完成させた。
「あー。楽しかったな」
「そうだね」
お父さんとの楽しい思い出になるかな。たぶん、一年に一回あるかないかの。
私が住んでる町にはめったに雪が降らない。降らない年もある。だからか、積もった日には大人もはしゃぐ。いつも機嫌が悪いお父さんでも。
毎日雪があったらいいのに。そう思ったこともある。けど、雪の日がレアだから、お父さんのレアな姿を見られるのかもしれない。
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