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失敗
「うぉっ、寒っ…。だけど、冷たい空気が心を洗ってくれるようで気持ちいいな。バーで知り合ったあの人の言ってた通りかもな…」
一人で車を走らせて4時間、彼は目的地に到着すると身体をおもいっきり伸ばして、冷たい空気で大きく深呼吸。
ここは薄氷に覆われた小さな湖沼の畔にある昨年出来たばかりのキャンプ場。
まだ認知度も低く休日でもそれ程賑わう事のない此処は、昨日の降雪の後の平日と言うこともあって今日は一層閑散としている。
周囲は山に囲まれ目に付く建物と言えばこのキャンプ場の管理棟くらいで、人工物は殆ど目に入らない。見渡す限りが自然一色である。
もちろん空気も澄み切っており、そのため、乾燥した冬の日は天気が良ければ満天の星を楽しむことが出来、天体観測には打って付けの場所でもある。
12月の今は、むしろアウトドア派よりも、そちらを目的とする人の方が多いのかもしれない。
彼がこのキャンプ場を訪れたのは、アウトドア派で一人キャンプ好きだからでも、天体観測の趣味がある訳でも無い。
彼の目的は仕事上の失敗から中々立ち直れない心を癒すためなのである。
その彼の名は、三森茂人。近年業績を伸ばしている中堅リゾート施設運営会社に勤めて3年目になサラリーマンである。
現在の勤務地は都内のホテルだが、行く行くは新規リゾート地の開発に携わることを目標として、日々を頑張っている。
会社の中での彼は、出世コースに乗った期待の社員でもある。
実直で堅物だがユニークさも持ち合わす。更に相手の気持ちを察することに長けた彼は上司からも顧客からも上々の評判で、誰からの評価も高い。
だが、そんな彼にもただ一つ苦手なものがあった。それは極度のシステム音痴、パソコンの前に立つだけで緊張してしまうタイプなのである。
その苦手さからか最近導入された新システムの操作にもなかなか馴染めず、半月ほど前にはついに入力ミスによるダブルブッキングを犯してしまったのである。
それは彼にとって初めての失敗。その上、それが偶々得意先同士の大口でもあったのだ。それだけに彼が受けたショックは大きい。
ただ救いだったのは顧客からの人数変更の電話があったことで、そのミスが比較的早期に発覚したことである。更には客先の配慮によって、幸いにも大事になることも避けられたのである。
ただ、初めての上司との客先への謝罪訪問は、真面目な彼には多大なダメージを残したのである。
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