キャンプ場

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キャンプ場

 それからと言うもの仕事帰りはいつもバーで飲んで、心を紛らわすのが茂人の日課となってしまっている。  そんな最中のことである。茂人は、そのバーで偶然にキャンプ好きの初老の男性と出会ったのである。  彼はその男性と意気投合すると、会話の中で心を癒すためのお勧めとして、星空の綺麗な今日訪れているキャンプ場を紹介して貰ったのだ。  最初はキャンプ何て億劫だと思っていた彼だったが、すっかり男のキャンプ熱に当てられてしまい「今度の休暇を利用して行ってみます」と、その場の乗りで言ってしまったのである。  実直な彼は嘘の尽けない性格。その他愛もない口約束を守るために、早速、今日行動に移したのである。 「ホントにあの人が言ってた通りのところだなぁ。  確かにここなら夜になったら奇麗な星空が見えそうだ。流石はキャンプ歴40年は伊達じゃないな」  傾き始める日差しを浴びなが茂人はそう呟く。  出発が遅かったので陽の差している時間も残り少ない。茂人は早くコーヒーを飲みながらゆったりとしたいこともあって、友人から借りたテントを急いで組み立て始める。  しかし、テントくらい簡単に組み立てられると安易に考えていた茂人だったが、完成図を知らない茂人には少々難しい作業であった。しかもテントは古いタイプのものでパーツも多い。 「やばっ、分かんない。どうしよう」  何度かやり直すも上手く行かず、立ち竦む茂人。 「どうしましたか?」  そこに何処から現れたのか、口髭が妙に似合う初老の男性が優しい笑みを投げかけてくれた。 「テントを組み立てるのは初めてで、どうも良く解からなくて」 「手伝いましょうか?」 「宜しいですか…助かります」 「あ~なる程、このタイプのテントね」  そう言いながら動かす手付きが、茂人には熟練さを感じさせる。  男性はあっという間に茂人が殆ど手を出すまでもなく、手際よくテントを組み上げてしまった。 「凄いですね」 「いやいや慣れですよ。慣れれば簡単です」  自分の出来ないことをいとも簡単にやってのけられると、異様に感心してしまうものである。更に困っていれば、それは尚の事である。 「ホント助かりました、良かったらコーヒーを淹れますので、ご一緒にどうですか?」 「それは嬉しいですね。遠慮なく頂戴させていただきます」 「ええ、どうぞ。少々お待ちください!」  初めての地で見知らぬ人から受けた親切は、心に身に沁みてしまう。茂人はそれだけでも、この地に来た甲斐があったと嬉しくなり、心が軽くなって来ているのを感じ始めていた。
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