雪だるま

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雪だるま

 せっかくの休日なのに、朝から外は雪。  遠出をする気にもなれなかった俺は、近所のコンビニで缶ビールと肉まんを買った。夕飯の前の小さなおやつタイムといったところだ。冷たいビールとほかほか肉まんの相性が良いかは知らんけど。  アパートのドアの前にも雪は少しだけ積もっていた。俺はその雪を、何となく空いている手ですくって丸め、小さな雪だるまを作った。そして、それを何となく部屋の中に持って入った。意味なんて無い。ただ、今年初めての雪に、心が躍っていたのかもしれない。そんな自覚はまったく無いけど。  照明とこたつの電源を入れて、買ってきたものをこたつの上に並べる。作った、小さな雪だるまもそこに置いた。そして、気づく。 「……溶ける、かな」  安物のこたつだが、しっかり身体をあたためてくれる機能はある。こんなところに置いておいたら、水になってしまうのも時間の問題だろう。俺は、雪だるまを、一番安全な冷凍庫の中にそっとしまった。 「……あ」  そんな行動をして思い出した。過去にも、同じようなことをしていたことを。  あれは小学校の低学年の頃だったかな。田舎の実家で生活していた時、雪がめちゃくちゃに降ったんだ。そのことを何故だか嬉しいと感じた俺は、雪だるまを大量に作って冷凍庫にぶち込んだ。その時に、最初から冷凍庫に入っていた、たくさんの食品を出してしまったから、母親にめちゃくちゃ怒られたっけ。  結局、雪だるまたちは、激怒した母親によって家の外に出され、いつの間にか溶けて消えてしまった。それからすぐに春が来て、雪だるまのことなんか忘れてしまって……雪だるまを作ることすらもしなくなった。懐かしい思い出だ。怒られたのは苦いけど。 「……」  俺はそっと冷凍庫を開ける。  うどんに、豚肉、そして雪だるま。変な組み合わせに、思わず笑みがこぼれた。  俺は独り暮らし。だから、冷凍庫の中に何を入れるか決めるのは自分自身だ。だから、この雪だるまをいつまで入れておくかは俺の自由。春だって、夏だって、秋だって通り過ぎて凍らせておけるんだ。 「あ、肉まん」  冷める前に食べないと。  俺は冷凍庫を閉めて、こたつに滑り込んだ。そして、ビールの缶を開けておやつタイムの準備をする。  あの雪だるまのことを、俺はいつまで覚えているだろう。  少なくとも、うどんと豚肉が入っている間は心配無いかな。  小さな小さな、雪のかたまり。  冬が終わった時に思い出すのも、案外、悪くないかもしれない。
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