あの雪の日の友達

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 わたしの住んでいる地域はあまり雪が降らない。一年の内にせいぜい片手で数えられる程度。そして、降ったとしてもみぞれが殆ど。ビショビショになるだけでロマンチックな気分になんてなれやしない。  一年に一回くらいは積もることもあるけど、地面が薄っすらと白く染まるくらいで、次の日には溶けちゃう儚い命。  だから、自分の部屋の窓から、数年ぶりに辺り一面真っ白に染まっている町並みが見えた時、年甲斐もなくはしゃいで家を飛び出してしまった。もうすぐ高校二年だっていうのに。 「いやー、寒いねえ」  言葉とは裏腹に、わたしの声は弾んでいた。冷え切って透き通った空気に、わたしの声が染み渡っていく。 「そうだねえ」  隣を歩く友達のサキもしみじみと言う。  道路に積もった汚れ一つ無い真っ白な新雪を、足に力を込めて踏みしめる。雪を踏んだ時のキュッキュッという独特の感触が楽しい。後ろを見ると、わたしの足跡だけが雪の上にポツポツと残されている。  息を吸い込むと冷え切った空気が肺まで入ってきて、吐きだすと空気が白く染まる。昨日だって同じように寒くて吐きだす空気は白かったけど、気分はぜんぜん違う。昨日は寒さに震えて息を吸うのも苦しかったのに、今は楽しくて心なしか深く呼吸をしている。  空からはまだ大粒の雪がしんしんと降りしきっている。昨日から仕事に行けるのかどうかばかり心配していたお父さんやお母さんには悪いけど、もっともっと降ればいいのにと願ってしまう。まあ、明日の登校の頃には寒くて嫌になっちゃうかも知れないけど。 「寒いねえ」 「そうだねえ」 「真っ白だねえ」 「そうだねえ」 「明日も残ってるかなあ。残ってると良いなあ」 「そうだねえ」  サキと二人、並んで歩く。目的地は決めてない。ただ、他の誰ともすれ違わない二人だけが存在する世界を、雪の降りしきる音と二人の声、息遣い、足音だけが耳に届く空間を歩いていく。 澄み切った世界は本当に気持ちがいい。
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