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ここは日本海側のとある豪雪地帯・山間部に建てられた三人の新居のログハウス……。
「──父、母……雪ん子、家族の思い出作りがしたい」
冬のある日、リビングのテーブルで冷製寄せ鍋を囲んでいた時のこと。突然、そんなことを雪ん子が言い出した。
「家族の思い出作り?」
「うん。雪ん子、前に友達の座敷童子から聞いたことある。人間の家族は旅行とかお祭りとか行って思い出作りするんだって」
小首を傾げて尋ねる雪女に、雪ん子は頷くとそう説明をする。
「こうしてみんなで冷たいお鍋を食べたり、麓の街へ買い出しに行ったりするのではいけないんですか?」
「お鍋も美味しいし、みんなでお買い物もいいけど、雪ん子、もっといつもと違うことがしたい! 旅行とか、やっぱり旅行とか!」
重ねて問い質す雪女に、雪ん子はさらに駄々を捏ねる。つまりは家族三人で旅行がしたいらしい。
「うーむ……そういわれてみれば、そうした家族らしいレジャーはまだしたことがなかったな。確かにそれもいいかもしれない」
二人の会話に、雪男は箸を置くと太い腕で腕組みをして考え込む。
「旅行ですか……でも、わたし達の場合、どこへ行けばいいのでしょう? 温泉は入ると冷水になってしまいますし、海水浴も流氷で海が閉ざされしまい、他の人達にご迷惑がかかってしまいます」
一方、雪女の方は、蒼白い顎に手を当てると、娘の願いをかなえるための具体的方法について模索する。
「逆にハワイやグアムのような暑い場所はわたし達の方がまいってしまいまいますし、困りましたねえ……雪ん子さん、近くの雪原でピクニックというのはどうでしょう?」
「ええ〜…雪ん子、もっと遠くへ旅行に行きたい〜!」
そして、考え出した代替案に娘が眉根を「へ」の字にして文句をつけたその時。
「いや、それならちょうどいいイベントを今やってるみたいだぞ?」
いつの間にやらスマホを弄っていた雪男が、そう言ってその画面を二人の方へ見せてきた。
「雪まつり?」
そこには、精巧に作り込まれた雪像を背景にして、そんな文字が踊っていた──。
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