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北海道某所・Sポロ雪まつり会場……。
「──わーすごい〜! 雪だるまも人もいっぱいいる〜!」
大勢の見物客で賑わう会場のど真ん中で、雪ん子は眼を輝かせながら感嘆の言葉を叫ぶ。
「雪ん子、あれは雪だるまではなく雪像というんだ」
「それにしても、ほんとにどれもよくできてますねえ……」
そんな娘に、トレンチコートとソフト帽で変装した雪男は正しい名称を父親らしく教え、母の雪女も口を半開きにしながら、雪でできた芸術作品の数々に目を見張っている。
そうした三人を含む群衆達を見下ろすかのようにして、広い会場内に林立する巨大な雪で作られた彫像群……彼らが旅行先に選んだのは、毎年S市で開かれる国内最大級の雪まつりだった。
「これはナーガ族の……やつらもレッドデータブックに載るレベルの頭数だったな……無事にやってるだろうか?」
今年は辰年ということもあり、メイン展示として作られた巨大な龍の雪像を見上げながら、雪男は同じ境遇の種族として深く感慨に浸る。
「まあ、なんて素晴らしい……一度でいいからこんなお城に住んでみたいですわねえ……」
他方、雪女はアンデルセン童話や某アニメ映画で有名な、雪の女王の氷の城をイメージした雪像彫刻にうっとりと頬を赤らめ、あれやこれやと妄想を膨らませている。
「あ、これ! 今すっごく人気なスパイの父と殺し屋の母とエスパーの娘のファミリーのアニメだ!」
また、雪ん子もとある人気アニメをモチーフにしたほぼ等身大の作品を前に大はしゃぎだ。
三人が旅行先としてここを選んだ選択は、どうやら大当たりだったみたいである。
「それに、雪像を溶かさないための温度設定もなんだかとても落ち着くな」
「はい。ほんとに冷たくて清々しい空気です」
「うん! 雪ん子もとっても元気!」
さらには雪像の維持のため、会場では暖房を使っていないことも三人にとって好都合な環境である。
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