1人が本棚に入れています
本棚に追加
私が大学4年の冬だった。2月下旬のある日、目黒から電話があった。目黒と話すのは中学以来。それは、目黒の大学のサークルが主催するスキー旅行への誘いだった。どうやら人が集まらないらしい。初心者も歓迎だった。私は目黒からの電話に驚く一方、内心うれしさに心が軽くジャンプした。と言うのは、私はバイト代をすべて注いでスキー道具一式を購入したばかりであった。
その冬『私をスキーに連れてって』という映画が大ヒット。当時、若者の間では冬と言えばスキーが定番。まだまだバブル後期の日本、スキーをせざる者若者にあらず。そんなプレッシャーを冬の寒さ到来のたびにキンキン感じた時代だった。街では色鮮やかなダウンジャケットが主流。そんな中でこの映画は若い世代にとどめを刺した。
私も内心はスキーに対する興味がウサギのごとく爆走だったが、外面は安易に流行を追わないカメの姿勢を堅持した。だが、同じでゼミで雪国出身の滑川が執拗だった。ヤツは私と顔を合わせるたびに会話の中身にスキーの話題を滑らせた。そして、去り際に必ずこう言った。
「お前もスキーが好きになる」
ヤツは私の隙を見事に突いた。見かけは固いがガラスだった私の矜持はヤツの口撃に砕け散っていた。
最初のコメントを投稿しよう!