友情

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 目黒が私に手を挙げた。久しぶりに見る目黒は磨きがかかり精悍だった。雪焼けの顔からのぞく白い歯が印象的だ。主催者側なのだろう。名簿を挟んだボードを手に、こなれた様子で参加者をチェックしていた。総勢30名前後だろうか。貸切ったバスの周りは冬の深夜にもかかわらず若い男女の熱気が立ち上がる。既にグループができており、殊に目黒の周囲は女性グループでひときわ上の熱源だった。冬の夜に大半が帽子をかぶらず、顔にかかってもいない長い黒髪をしきりにかきあげていた。  目黒が私を初心者のグループに導いた。私は気後れしながらも胸を張って従った。私のグループは私を含めて4名だった。  角田さん。丸井さん。外国人のデーブ。お互い、名前だけの自己紹介でバスに乗り込んだ。私たちはバスの真ん中あたりで横一列に陣取った。左の窓際が私、隣が角田さん。通路を挟んで丸井さん、右の窓際がデーブだった。バスが走り出すと我たちは徐々に打ち解けだしていた。  角田さんは立派な顎にいかり肩。建設会社の社会人。丸井さんは目黒工務店の事務員さん。どんぐりまなこに白い帽子と白のダウンが良く似合う。デーブは片言の日本語を話すアメリカ人。柔和な瞳に大きな体躯、目黒の大学の留学生。やがて、私たちはおしゃべりにも疲れ、車内灯の明りが落ちると同時に眠りに落ちていた。  身体がゆっくり大きく左右に揺れ出した。バスが緩やかにカーブを曲がっていくようだ。 「山の中に入ったのかな...」  寝ぼけた私は、吐息ですっかり曇った窓を手で拭ってみた。すると真っ暗な窓外に何かいた。 「えっ、雪だるま⁈」  窓を見つめる丸井さんだった。
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