第三話 落としたんじゃなくて、無くしてたのかもしれない。

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『特別養子縁組』。 『里親』。  蒼志がすっかり寝付いたベッドを抜け出し、一人、リビングへ戻る。暗がりの中パソコンを開き、人生で初めて、そういったワードで検索をかけた。  特別養子縁組では「配偶者がいること」という条件があり、見事に撃沈。  里親の方は、単身者でも可能のようだが、児童相談所にいる児童から里子を決めるようだった。何やら求めていることとは異なるような気がする。しかも親権は実の親が持つし、決められた年齢に達したら委託措置解除になってしまう。  蒼志と、家族になりたいのだ。  どうも現実はやっぱり、そう上手くはいかない。  俺の求めている関係により近い形には、どうやったらなれるのだろうか。 「……うーん……」  ノートパソコンの中の文字を追う。  静寂の中で、カラン、とロックグラスの中の氷が音を立てる。そこで思い出したように、グラスを手に取り、呷る。渇いた喉を梅酒が潤す。  再びパソコンに目を移した時、「たかあづ」と小さな声がかかった。頭上の電気が点いて、反射的に目を閉じた。  ゆっくりと目蓋を開き、声のした方を振り返る。 「どうした? 起きたのか?」 「……何してるの? 寝ないの?」 「あー……ちょっと、仕事を残してて……」 「そうなんだ……」  蒼志が近付いて来たのを確認してパソコン画面を伏せたのは、不自然だっただろうか。  蒼志はチラリとパソコンの方へ目線を向けたが、直ぐにこちらへ向き直る。 「暖房くらい点けたらどう? 流石に、夜は冷えるよ」  言うなり、蒼志はソファーの方へ移動してエアコンのリモコンを操作する。直ぐに「ピッ」という電子音と共に、エアコンが口を開ける。 (……夏とは反対だな……) 「たかあづがオレに、『エアコン点けろ』って言ったの忘れたの? 今年の夏の話だよ?」 「……今、おんなじこと考えてた」 「そうなの? なんか、こそばゆいね」  ふふ、と笑って、蒼志は俺の元へ戻ってくる。 「ねぇ、お仕事、今じゃなきゃダメ? 明日は日曜日だよ。明日のお昼じゃダメなの?」  まるで本物の猫のように、蒼志は俺とパソコンとの間をすり抜け、俺の太股に体重をかける。 「…………一緒に寝よ?」  ダメ押しの一言。 「ぐう!」 「なんて?」 「仕方がないなっ! 一緒に寝よう!」  可愛い。可愛いが過ぎる! 自身の眉間を人差し指と親指で摘まみながら、何度も頷く。 「やった!」  蒼志はぴょんと飛ぶように俺の太股から離れ、俺の手を取り、引く。  ずっとこんなに幸せな日々が続けばいいのに。  そう思う。  本当に、心から。  そう願う。  なぁ、神様。仏様。……あっくん。  どうすればいいと思う?
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