雪女に恋をすると

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雪の結晶はなぜ六角形なのか、よくわからんが水の分子構造と関係しているそうだ。 「雪が降ってきたよ」 「うん、知ってる」 だって、君が現れたから。 「…なんか大きくなったね」 そんなに変わらないのに。僕を見て彼女は親戚のおばちゃんみたいなこと言う。 「ぼくが大きくなったらお嫁さんに来るって話・・・」 「まだ、結婚できないでしょ」 「覚えているならいいや」 彼女との出会いは一年前。僕はその時に一目ぼれをしてフラれている。 「でも、死んじゃうよ」 「うん」 僕を見てクスクスと笑う白装束の女性。 「そんなに私が好きなの?」 僕は恥ずかしくなって質問から逃げた。 「死なない方法はないのかな」 「科学が発展すればあるいは・・・」 「いや、科学って妖怪が言うなよな」 「あはは」 明るく笑う彼女は雪女。その笑顔が愛おしい。 「僕は結婚したい。君には何もメリットはないと思うけど」 「メリットで人は結婚するの?」 「いや、違うと思うけど」 「でしょ。愛だよ、愛。」 「妖怪が愛って…」 ボケているのか何なのか呆れていると、 「私は乙女だから。愛は大好物だよ」 そういう彼女からは嘘やごまかしを感じなかった。 「大好物?大好物は男の精気だろ」 「きゃー、下ネタやめて」 「いや、あなたそういう妖怪だから」 精気が下ネタなのかはよくわからない。僕は彼女にフラれている。その理由はだいたい予想できていた。 「なぜ僕をフッたの?」 「だって美味しくなさそうだったから」 「今は?」 僕の問いかけに驚くように問い返してきた。 「何か変わったの?」 僕は変わった。彼女は気付いていないのか、大きな変化なのだが。 「精気のない僕は貴女に愛されることはない」 そう、あの時僕は余命宣告をされた病人だった。あの時との違い。僕は死んだ。つい3日前、成人式を迎える前に。 生きたかった。もっと色々な経験がしたかった。何より、好きな人と家庭をもちたかった。 「今の僕はどうかな」 きょとんと僕を見る雪女は、伝承の冷たい雰囲気は微塵も感じられない。 「哀れだね」 彼女の冷たい言葉。 「うん」 僕は下を向く。しばらく沈黙が続いた。彼女はどんな表情をしているだろう。 「そっかぁ」 彼女の明るい声で僕は顔を上げた。彼女は笑っていた。 「そんなに私が好きなの?」 「じゃあ…、」そう言って彼女は僕の手を握った。辺りが吹雪いて目の前の彼女のことも見えなくなってくる。彼女が僕を抱きしめる。「私と一緒になろうか。」そう言った気がしたが、吹雪の音で聞き取れなかった。 その雪山では毎年、遭難者が出て雪解けとともに死体として発見されていた。「雪女の呪い」などと村では怖れられていたのだが、ある年からその山での死者はいなくなった。 運よく雪山から生還した者が話すには、雪女に襲われるところで、男に助けられた。いや、助けられたというより、 「貴様、うちの嫁に手出すとはいい度胸だ」 そういってぶん殴られて目を覚ました。とのこと。何より怖ろしかったのは、その雪女ではなく、嫉妬に狂った男の顔。生きてはいないけど、誰よりも生き生きとした生気があったとか。
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