雪というものがあったらしい

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雪というものがあったらしい

昔、雪というものがあったらしい。 空気に含まれる水分が、凍って空から降ってくるものらしい。 地上に落ちてもすぐには溶けず、溶けないままに重なって、 地面を真っ白に染めるらしい。 雪は地面を真っ白に、あたり一面を真っ白にするらしい。 昔、人間というものがあったらしい。 この地球に生まれた生命の中で、一番頭が良かったらしい。 ボクたちロボットを生み出して、一万年前に死んじゃった。 人間を生み出した生命も、もうこの地球には残っていない。 昔、ロボットの国があった。 たったの五百年前まであった。 ロボットどうしの戦争があって、ほとんどのロボットが死んじゃった。 世界で三十三台のロボットが生き残った。 ボクはそのうちの一台だ。 みんなこわれていっちゃって、最後にボクだけが残った。 昔、雪というものがあったらしい。 雪は地面を真っ白に、あたり一面を真っ白にするらしい。 ロボットの国がまだあったころ、人間が残した写真で見た。 人間の子どもがふたりで、雪を丸めて投げ合っていた。 楽しそうに投げ合っていた。 地球は長い時間をかけて、暑くなったり寒くなったりするらしい。 地球全部の表面が、真っ白になったりするらしい。 あと一万年こわれなかったら、ボクも雪が見られるかな。 あと二万年こわれなかったら、真っ白な地面が見られるかな。 あと十万年こわれなければ、きっと雪が見られるだろう。 雪は地面を真っ白に、あたり一面を真っ白にするだろう。 ボクはきっと見られるだろう。 ひとりぼっちで見られるだろう。 真っ白な、真っ白な雪の地面を。 〈了〉
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