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 幸い、昼休みの今、教室に残っている人は少なかった。河瀬がいつもつるんでいる一軍女子たちの姿は見えなかったし、河瀬を囲んでいるキラキラ男子たちも誰一人として残っていなかった。  だから、今なら周りを気にせずに河瀬と喋れると思ったんだ。 「お前さ、自分で言うのもあれだけど」 「なによ急に改まっちゃって。和樹のくせに」 「俺のくせにって、なんなんだよ。……まあいい。言っておくがな、俺と話さない方がいい」 「……なんで」  キョトンとしたような顔をする河瀬。お前ほんとに、なんもわかってねーのな。 「俺が、ぼっちだからだよ。コミュ障で陰キャで根暗……誰もがそう思ってる」 「私はそうは思ってないけど」 「お前だけだよ、そんな事言うの」  そう返した俺に、河瀬は尚も分からないというふうに、首を傾げた。 「コミュ障? 今私とこんなに喋ってるのに?」 「それはお前のせいだよ。河瀬が俺に喋りまくってくるから、返してるだけだ」 「確かに……和樹が他のクラスメイトと喋ってるの見たことないわ。ま、まさか……友達、いない?」 「悪いかよ。俺なんかには二次元で十分だ」 「うーわっ! オタク陰キャ根暗ぁ」 「ほら、だろ?」 「うんうん」  流石に二回も頷かれるとそれも嫌だな。可愛く頷いて見せる河瀬は、確かに可愛かったけれども。……まあいい。 「ということでだな、河瀬」 「はい、なんでしょ和樹クン」 「友達多くて明るい河瀬海來が、陰キャぼっちオタクな俺に沢山構うとね」 「構うと?」 「他の河瀬のオトモダチの皆様がね、怒るんですよ」 「怒られたことはないけども」 「そりゃ本人に言う人は居ないだろうね」 「なるほどね」  会話にいちいち合いの手を入れてくる河瀬。こういうところが、彼女が明るくて人気な彼女たる所以なのだなと勝手に納得しながら、俺は続けた。 「でも俺は感じるんだよ。お前が俺に話しかけてきてくれているとき、背後からの『なんでお前ごときが話しかけられているんだ』っていう視線」 「なるほど、被害を受けているのは和樹なのね」 「そうだ」 「じゃ、謝っとく。私が人気なせいで、和樹に嫉妬の目が行っちゃって、ご・め・ん!」  テヘッと笑う河瀬。たしかに事実はそうなんだけれど、自分で言っているのを見ると無性にムカつくのは俺だけでは無いはずだ。 「でもさ」  河瀬が、少し真面目な声に戻って言った。 「私が誰に話しかけようと私の自由じゃん?」  俺は、彼女が何を言わんとしているのか、分からなかった。目が合う。
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