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「私は此上和樹と喋りたいから喋ってんのよ。和樹、面白いし。みんな和樹の面白さに気づいていなさすぎ」 「俺が面白い? そりゃ物好きだなお前」 「そーゆーふうに返ししてくるところだよ、和樹の好きなとこ」  ――ふ、と心臓が止まるかと思った。 「私、和樹のことが好きだから話しかけてんの」  またも攻撃を続ける河瀬。俺は未だ感じたことのない謎の感覚に陥る。彼女は続けて口を開く。 「あ、これは告白とかじゃないから」  ――じゃないんかい。 「陰キャ根暗な此上和樹と話すのが楽しくて好きだから、一緒に居るんだけど、だめ?」  おい、お前。あのな、こんな事急に言われておいて、なおかつその整った顔で首を傾げられたらな、男子っていうもんは「だめ」なんて言えないんだよ。  黙り続ける俺に、河瀬は提案した。 「わかった。和樹がその気なら、私も本気を出さざるを得ないな」  は? まじ何いってんのこいつ。 「……よし、勝負をしよう。私が勝ったら、和樹がどんなに皆から冷たい視線を向けられようと、私はこれからも和樹に喋りかけに行く」 「最悪だな」 「……なんなら、もっと高い頻度で喋りかけにいくかもな」 「もっと最悪だな」 「で、和樹が勝ったら私は和樹に話しかけない」  その言葉を言われた瞬間、ふと、胸の奥の奥の奥くらいの場所がちくりと痛んだような気がした。  ……気の所為だな。 「わかった」  俺は返事をした。 「その勝負、乗るよ。で、何で勝負するんだ?」  尋ねた俺に、河瀬海來は意味ありげな顔で笑った。 「ふっふっふ」 「……なんだよ」 「あのね和樹、物語序盤であーやって急に情景描写を入れてさ、あの話題を振ったってことは、もうあれしかないでしょ」  うん、指示語ばっかりでわかんないかな。それに物語序盤って何の話だよ。 「あれって……?」  俺は聞く。すると河瀬はその美しいドヤ顔を見せつけながら、くいっと窓の外を指さした。  そこに広がるは、昨日から振り続けている雪によって作られた、一面の銀世界。 「一対一、ガチの雪合戦」 「まじですか」    ***  ――かくして、放課後。俺と河瀬による、雪合戦の試合が幕を開けた。場所は校庭の端っこ。真ん中だと人目(特に職員室の方々)につくため、体育倉庫の陰になるところを選んだ。  ……って、場所まで気を使ったけど。  ほんとに俺、今から何やろうとしてんだろ。
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