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『私はその日雪の降る中にいました』
蝶ネクタイの気象予報士に相談された雨乞い祈祷師は、あっさりと言い放った。
「それの何がおかしいと言うんだ?」
気象予報士が言う。
「その日というのは、8月10日なんです」
町で起きた殺人事件の容疑者が、その日は雪の降る場所にいたと供述し、警察から気象予報士に意見を求められた。
「その日現場付近で雪は降っていたか?と。調べるまでもなくもちろんそんなこと有り得ません、その日は夏なんですから」
「どうして言い切れる?」
雨乞い祈祷師の迫力に押され黙り込む気象予報士の青年。
「祈祷師様は雪を降らせることもお出来になるのですよ」
助手のリンが得意げに、堂々と、一点の曇りもない目で主張する。
「それは冬にではないのですか?夏にも?」
青年のその反論は当然だと言わざるを得ない。
「別に8月に雪が降る場所がこの世にないわけじゃない。南半球は降る」
「容疑者は前日までこの町にある職場に出勤していました。南半球に行って帰ってくることは不可能ですし出入国記録もありません。ただ、当日から三日間の有給休暇を取っていました。その間の行動は黙秘しています。それで疑いが晴れないのです」
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