春が来たか?

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春が来たか?

 月曜日、登校するのが億劫だった。園田さんに会いたいような、あんまり深入りしない方が良いような、そんな気分だ。  園田さんは当然、普段通りに振る舞っていた。明るく可愛いいつもの園田さんだ。  俺が園田さんの方ばかり見ているからだろうか。時折、園田さんと目が合った。決まって彼女は唇に指をあてた。  なんだか、前みたいに気軽に話せなくなってしまった気がする。勿論、時間は支障なく流れていき、下校時間になった。その時、俺の袖を引っ張られた。園田さんかと思い、俺は身体を強張らせた。振り返るといたのは吉田さんだった。  クラスで1番可愛いと称される吉田さんだが、あの時の園田さんと比べると幾分、かすんで見えた。それでも吉田さんは可愛く、上目遣いの視線はなかなかの破壊力だった。 「あの。久保くん。お願いがあるの……後で2人で話せないかな?」と小声で言い、目を伏せた。 「えっ。あっ。良いけど」 「じゃあ。駅の途中のコンビニで待ってるから。1人で来て」と吉田さんは言い、さりげなく俺から離れた。なんだこれ。  俺は新井と三木に適当な理由をつけて1人でコンビニに向かった。足取りが軽い。けど、園田さんの笑顔がちらついていた。やれやれ。俺はあの子の良い男友達に過ぎないのだと自分自身に強く言い聞かせた。でも、瞬きする度に園田さんの笑顔が浮かんできた。 「あ。久保くん。来てくれてありがとう」と吉田さんは言い、ぺこりとお辞儀をした。 「用ってなんだろう?」と俺は出来るだけ良い声で言った。 「あのね。明後日、2月13日なんだけど、下校の時に新井くんと二人きりになりたいの。久保くん、いつも新井くんと三木くんの3人で帰ってるよね?何か理由をつけて新井くんを1人にして欲しいの。14日だとライバルが多いから」と吉田さんは言った。  あ〜。そうですよね、やっぱりと頭の中で声が響いた。しかし、不思議と落胆よりもどこか安心する自分がいた。   俺がぼんやりとしていると吉田さんは「お願いっ」と言い、手を合わせた。 「良いよ、良いよ。三木と2人で帰るよ。2月13日だね。分かったよ」と俺は言い、親指を立てた「グッドラック!」 「えへ。ありがとう」と吉田さんは満面の笑みを浮かべた。昨日までの俺なら完全にノックアウトできる笑みだった。
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