バッカじゃない?

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バッカじゃない?

 吉田さんと別れ、俺は1人でぼんやりと駅に向かった。  新井の奴やるなあ。服なんて買う必要無いじゃんか。イケメンは安上がりだぜ。そんな事を考えていると、また袖が引っ張られた。振り向くと今度こそ、園田さんだった。 「あの。久保くん。さっき誰かと一緒に居なかった?」と園田さんは言った。いつもと雰囲気が違うし、表情も固い。  俺は正直に答えるべきか迷った。 「コンビニに寄ったら、吉田さんがいたけど」と俺は曖昧な返事をした。すると園田さんの眉間に微かにシワが寄った。 「ねぇ、何か言われなかった?」と園田さんは言った。やっぱりいつもと違う。なんだか余裕が無い。  そんな様子を見ていると閃くものがあった。 「それって例の秘密が関係してるかな?」と俺は言い、園田さんを見つめた。  園田さんは答えずに目を逸らし俯いた。 「真奈美ちゃんは可愛い」と俺は言ってみた。微かな諦めを含んで。まだ戻れる。俺は気を遣わないでいい男友達だ。  園田さんは顔を上げ、俺を見つめた。彼女の顔を紅く染まっていた。これは夕陽のせいだけじゃない。  俺は園田さんを見つめる。うん。可愛い。誰にも負けないぐらいに可愛い。 「園田さん。時間が無い。明日だ」と俺は言った。 「どういう意味?」と園田さんは目を見開いた。 「例の秘密。理由が分かったんだ」と俺は何とか笑ってみせた。 「えっ!あああ、ホントに?バレちゃったの?どうしよ!ちょっと!心の準備が!てか、明日ってなに?」と園田さんは慌てふためいて、腕をぶんぶん回した。本当に可愛いな、この子。 「新井だな」と俺は言った。  園田さんは新井が好きなのだろう。あの時、園田さんはショッピングモールでバレンタインのプレゼントを探していた。だから黙っていて欲しかったのだろう。でも時間が無い。13日には新井と吉田さんが付き合ってしまうだろう。そうなったら園田さんがどれだけ可愛くても手遅れだ。  俺が吉田さんの部分をぼかして伝えると園田さんの顔から表情が抜けていった。 「13日や14日はライバルが多い。明日しか無い」と俺は言い、親指を立てた。上手く言えた。よく頑張った、俺!「健闘を祈る!」 「アンタさ」と園田さんは言い、俯いた。  呼吸1回分の沈黙が流れた。園田さんは勢い良く顔を上げた。涙に滲んだ真っ赤な目をしていた。 「バッカじゃない?」と園田さんは叫んだ。  そして俺に背を向けて走り出した。
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