タカラモノ

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タカラモノ

「ねぇねぇ、覚えてるかな?アウトレットモールに連れて行ってくれるって約束」と園田さんは言い、俺を見上げた。 「うん。覚えてるよ。じゃあゴールデンウィークはどうだ?」 「う〜ん。連休は混みそうだからなあ」と園田さんは首を傾げた。園田さんの髪が俺の肩を撫でた。 「でも、ゴールデンウィークはセールやるみたいだぜ」と俺は言った。 「悩むなあ。どうしようかな。行きたいなぁ。久保くんを着せ替えて遊びたいなぁ」 「あんまり遊ばないでくれ」 「大丈夫!格好良くしてあげるから!久保くんも私の服、選んでよ!」と園田さんは言い、ニヤッと笑った。柔らかな夕陽が彼女を照らした。    あの日からもう2ヶ月が過ぎた。季節が移り変わり春になった。でもまだまだ夕方は冷える。 俺たちは手を繋いで歩いていた。  俺はずっと気になっていた疑問を口にした。 「そういえば、例の秘密の事だけど」と俺は言った。そうなのだ。俺はまだ『ショッピングモールで俺たちが会った事』を秘密にする理由を知らない。 「えっ?今更?まだ分からないの?」と園田さんは言い、目を丸くした。「もう!あの時、答えを言ったようなものでしょ?」  園田さんは大きいため息を吐いた。そして「やれやれ」と園田さんは言い、繋いでいた手をほどき、俺に背を向けた。  俺は反射的に園田さんを抱きしめた。どこかに走り出してしまわないように。 「知りたいの?」と園田さんは言った。「どうしても?」 「ああ」 「当ててごらん?」 「ヒントは無いのか?」 「こうしてるのがヒントにならない?ああ。もう。恥ずかしいなあ」  抱きしめていると園田さんの鼓動が速くなり、体温がどんどん上がっていくのが感じられた。 「凄くドキドキしてる」と俺は言った。  「もう!何言ってるの!そっちこそ!」  俺は思い出を巡らす。あの出来事が全てのきっかけだった。今までの園田さんの言動を思い返す。まさか。 「きっかけ」と俺は口にした。俺が続けて何かを口にする前に園田さんが遮った。 「はい、はい、正解、正解。ああ!もう!久保くんの気を引く為のきっかけ作りだったの!」と園田さんは言い、こちらに向き直った。顔があの時よりも近い。 「タカラモノ。手に入ったでしょ?」と園田さんは言い、そっと目を閉じた。  
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