園田さん

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園田さん

 教壇に立つ先生の授業は何も変わっていない。けど、受験が終わるとなんだかリラックスして聴ける。不思議と受験前よりも興味が湧いた。なかなか良い話をするじゃないか。 「原子核を構成している陽子は電気的にプラス、中性子は中性だ。プラスの陽子が反発するから原子核はバラバラになってしまうと考えられる。しかし、そうはならない。何故か?原子核の陽子と中性子はさらに小さい粒子をやりとりしている。これがあるから、原子核はバラバラにならない。この粒子を中間子と言う。湯川秀樹博士がこれを予言し、その後、中間子は発見されたんだ。つまりだ。何かをやりとりする事で結びつきができる。これは人間関係でも同じだ。だから、卒業後も親しくしたい奴とは何らかのやりとりをしなさい。でなければ、あっという間に関係はなくなってバラバラになってしまう。おっ何だか良い事を言ってしまったな」と先生は得意気な口調で言った。他のクラスの友人から聞いたが、この先生の鉄板ネタらしい。毎年、この時期になるとこのネタをやるそうだ。  ふと横を向くと園田さんと目があった。園田さんはニヤッと笑い、口元に人差し指をあてた。さりげない動きだった。他の誰かには唇を掻いた様にしか見えなかっただろう。  
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