当ててごらん

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当ててごらん

「よう。青少年、ちゃんと秘密は守っているかい?」と耳元で囁き声が聞こえた。振り返ると園田さんがいた。思っていたよりもずっと顔が近く、のけぞってしまう。 「おっ。おう。誰にも言ってないぜ」と俺は返した。  今は下校中で周りには知り合いは誰も居なかった。夕焼けが眩しく、まだまだ吹く風は冷たかった。  園田さんは俺の隣に来た。俺は車道側に寄って、歩くスピードを落とした。 「ねぇねぇねぇ。久保くんはいつも1人で帰るの?」と園田さんは言い、俺を見上げた。 「いや。いつもは新井や三木と一緒。あいつら、今日は用事があるんだ」と俺は言った。「園田さんは?」 「そりゃ、私も女子同士で帰ってるよ。でもね、久保くんが気になったからねぇ」と園田さんは目を細めた。 「大丈夫だ。秘密は守るよ。でも、何が理由なんだ?」 「ふふ〜ん。気になる?」と言い園田さんは口角を上げた。 「まあ、な。」と俺は言った。「理由が分からないと秘密にしようも無いぜ」 「ふふっ。会った事を言わないでくれたら、それで大丈夫だよ。あっ。そういえば久保くんは猫好きなのかな?ずいぶんとデレデレしてたもんねぇ」  「言わないけどよ」と俺は言い、思い付いた事を口にした。「園田さんの家は動物、飼っているのか?」 「うちは飼ってないよ。マンションだから飼えないんだ。久保くんちは?」 「うちはじいちゃんが動物嫌いでね、飼えないんだよ。だから、ペットショップで見るだけ」と俺は答えた。  園田さんは無理にペットを飼おうとしている訳では無さそうだ。まあ、当たり前だ。 「でも、動物好きなんだ?」と園田さんは俺を見上げた。「私とおんなじ!」  俺たちはクラスのあれこれや、テレビ番組なんかのくだらない話をしながら歩いていた。  夕陽に照らされている園田さんの横顔はなかなかに可愛い。  楽しげに尖る唇、表情豊かな瞳、時折、意味ありげに伏せられる長い睫毛。今までの俺の生活にはこんなものは無かった。少しばかり緊張もするけど、それも心地良かった。 「秘密の理由は当然、秘密なんだよな?」と俺は言った。 「もちろん!」と園田さんは言い、ウィンクした。「気になる?じゃあ!当ててごらん?正解だったらちゃんと正解って言うよ」  俺は上を向いてしばし考えた。 「久保くんって考える時、上を向くよね」と園田さんは笑いながら言った。 「悪かったな」と俺は苦笑いを浮かべた。何故、そんな事を知っているんだろう。 「ねぇねぇ、早く言ってごらん?」と園田さんは言い、肘で俺の脇を突いた。 「あ〜上手く言えないけどな。俺は園田さんの事をな」と言い、見つめた。すると、俺が言い終わる前に園田さんが口を開いた。 「えっ!えっ!私の事を!」と園田は言い、目を大きく見開いた。目、大きいな。 「うん。大事なクラスメイトだと思ってんだ。もしな、あの時、あの場所でまずい事があったんなら、遠慮なく言ってくれ。力になれるか、分からないけどさ。出来る事はするぜ」と俺は言った。  俺の最大の懸念は何らかの犯罪行為、あるいはそれを疑われる行為があったのではないか、という事だ。もし犯罪を匂わせる事があれば、推薦は取り消されるだろう。
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