君がいい人なのはよくわかった。

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君がいい人なのはよくわかった。

 しばし沈黙があった。俺の予想は当たってしまったのか。横を見ると園田さんは眉間にシワを寄せて、目を閉じていた。よく歩けるな。 「何でもするし、力になるから」と俺は言った。 「あのさあ?まずいことって例えば何?」と園田さんは言った。声が低い。唇がへの字になっていた。よくわからないが地雷を踏んだな、こりゃ。 「いや。分からねぇけど。何かに巻き込まれたとか?バレたら推薦が危なくなるような事とか?」と俺は声をひそめた。「は、犯罪とか」 「は・ん・ざ・い」と園田は呟き、天を仰いだ。髪がなびき、おでこが見えた。 「おい。なんかあったら、力になるぜ」と俺が言うと園田さんは盛大にため息を吐き、俯いた。そして顔を上げた時、園田さんはしっかりと口を閉じて、奥歯を噛み締めていた。怒っているようにも笑いを堪えているようにも見えた。 「久保くん。私の事、守ってくれるの?」と園田さんは言った。固さを感じる口調だった。 「お、おう」と俺は返した。 「もっと、ちゃんと言ってくれないかしら?」と園田さんは言った。「『真奈美は俺が守る』とかさ。はいっ」 「はあ?」と俺がこぼすと園田さんから強い視線が刺さった。「真奈美は俺が守る」と言った。 「う〜ん、声が小さい!やり直し!そんなんで守れるか!」と叱責が飛んだ。体育会系か。 「真奈美は俺が守る!」と俺は大声を出した。そして目だけを泳がし、周囲を見まわした。誰も居なかった。ほっとした。  横を見ると園田さんがニンマリとした表情を浮かべていた。遊ばれたのがとてもよく分かった。 「後半、目が泳いでいたけど、まあ、合格としようか」と園田さんは言った。「君がいい人なのはよくわかった」 「俺で遊ぶなよ」と俺は言ったが声に力が入らない。当然のようにスルーされた。 「守ってくれるのは嬉しいとして。でもさ、犯罪者呼ばわりは聞き捨てならないなぁ?」と園田さんは言った。「ちょっと顔を貸してもらおうか?ん?別に悪いようにはしないよ。日曜日は空いてるかな?」  園田さんは目を細めて、思い切り口角を上げた。本人からすれば悪人の笑みのつもりなんだろう。そんな仕草は可愛いだけだ。  
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