デビュー準備

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デビュー準備

 俺は昨日の帰り道の園田さんとの約束についてぼんやり考えていた。そのせいだろうか、気がつくと園田さんの声がよく耳につく。 「ねぇねぇ、土曜日さ、みんなでモール行かない?」  園田さんが周囲の女子に声を掛けていた。周囲の女子たちからは感触のいい返事が返ってきていた。 「いいね〜。そろそろ、春物出るよね。卒業したら、制服じゃなくなるじゃん。服、増やさなきゃね」 「私、冬物セールみたい!」 「チャレンジタワーって巨大パフェ知ってる?前、食べ切れなかったんだ。卒業前に何としても完食して勝利で終わりたい!」  そんな楽しげな黄色い会話が聞こえてきた。  園田さんたちの会話をぼんやりと耳に流していると、誰かが背中を叩いた。顔を上げると新井がいた。 「久保。三木と3人で出かけないか?」  新井と三木は俺の友達だ。気が合うし、気を使わないで済む間柄だ。ノーガードで下らない話ができる。俺が高尚な事を口にしても、強烈な下ネタを吐いても、そのまま受け止めてくれるか、スルーしてくれる。 「日曜はどうよ?」といつの間にか後ろにいた三木が言った。 「日曜、用事があるんだ。土曜じゃ駄目か?」と俺は園田さんをチラ見しつつ答えた。 「あ〜。俺は土曜でいいぜ」と三木は言い、新井も「構わないぜ」と答えてくれた。 「で、どこに行くんだ」と俺は言い、話題を逸らした。2人に『日曜の用事ってなんだ?』と聞かれると困る。きっと例の秘密に含まれているだろう。 「久保さ。お前、大学で何がしたいよ?」と三木が言った。顔がニヤけている。 「当然、勉強だぜ」と俺は言い、三木と新井を見た。一呼吸置いて、「勿論、モテる技術も学びたい」と小声で付け加えた。 「よし。行き先だけどな。アウトレットモールに行こうってな。駅前からバスが出てるから、それに乗れば楽だし、金もそんなに掛からない。どうだ?大学デビューだ」と新井が言った。 「まずは身だしなみのお勉強だぜ」と三木はだらけた目元、口元を引き締め、真面目ぶった口調で言った。 「悪く無いな」と俺は言った。うん。悪くない。むしろ都合が良い。なんせ、俺の私服の半分は母が買ってきたモノだ。未だに母親の世話になっているのは恥ずかしい。  俺が制服以外を着るのは土日だけだ。会うのは男だけだから、服装に気を使う事は無かった。せいぜい洗濯してあればそれで良かった。これからは違う。 「決まりだな。じゃあ、土曜日の10時、駅前に集合な」と新井が締めた。  
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