デビュー準備

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 家に帰った俺は机の引き出しを開けた。中にはお年玉やら小遣いがしまってある。幾らあったかな。  ここ数ヶ月は勉強で忙しく、お金を使う機会が無かった。推薦を受けるにはある程度の学力が求められる。校内での成績が悪いと受けられないのだ。試験もしょっちゅうだったし、結構しんどかった。もっとも、普通に受験する人はもっと大変なんだろうけど。  数えて見ると7万あった。今後の事を考えて、今回の軍資金は5万にしようか、6万にしようか悩む。  俺はベッドに腰掛けて、下校の時に買ったオトコ向けのファッション誌を眺めた。なんだかピンと来ない。おまけにかなり奇抜な服装に見えた。少なくとも俺の街では見かけない服装だ。都会には、大学にはいるんだろうか?  メンズスカートってなんなんだ?  俺はため息を吐いた。気がつけば、階下より肉の焼けるいい匂いが漂ってきた。腹減ったな。 「優斗〜ご飯〜」と母の声が聞こえて来た。返事をするより前に、俺の腹が返事をした。  すでにテーブルには夕飯が湯気を立てていて、母と大学2年の姉が席に着いていた。父は仕事だ。いつも10時ぐらいに帰ってくる。 「優斗、手、洗った?」と姉が言い、席に着こうとした俺は大人しく洗面所に向かった。反抗しても不毛な事は骨身に染みている。  手を洗い、鏡を見た。  俺の顔ってどうなんだろう。特別イケメンでも無ければ、不細工でも無い、と思う。  清潔感。そんなよくあるフレーズが頭をよぎった。清潔にする事はできる。洗えばいい。簡単だ。でも清潔『感』を出すのはどうすれば良いだろう。自分の顔を見ていてもよく分からない。俺は諦めて頭を振り、テーブルに向かった。  俺は「頂きます」と言い、軽く手を合わせ、豚の生姜焼きを口に入れた。生姜の香ばしさと豚の肉汁が口の中に広がった。「うめぇ」と思わず声が出た。俺はすかさず白米をかき込む。至福のひとときだ。 「優斗、生姜焼き、まだ作れるけど、食べられる?」と母が言った。  口に食べ物が入っている俺は激しく頭を縦に振った。  母は食事を切り上げ、台所に向かった。 「お母さん。まだいいよ。食べ終わってからで」と急いで飲み込んで俺は言った。 「すぐ出来るから、大丈夫よ。待ってなさい」と母は返した。  
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