ハラペコのエヴァ

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

ハラペコのエヴァ

「ねー、この空き地ってなんであるのかなあ?」 「え?」  それは、ある日の学校帰りのこと。同じマンションに住んでいるユリナちゃんが、私にそう話しかけてきたのだった。  彼女は同い年の小学校四年生。女王様みたいに我儘なタイプで、正直私は彼女が苦手だった。それでも同じマンションで暮らしている以上、嫌でも顔を合わせるし通学班も同じになる。ましてや今年は同じクラスになってしまったので、帰りも誘われて一緒に帰ることが多かったのだった。  向こうは自分を友達だと思っているらしいし、機嫌を損ねると面倒くさい。脈絡のない話にも付き合って、空気を読みながら一緒に歩かなければいけない。 「ここ?」  そして、その日もそれは同じだった。学校の帰り道、私達は寂れた住宅街を抜けてマンションへ向かう。その途中に、がらーんと広い空き地があるエリアがあるのだ。  草もぼうぼうに生えっぱなしで、“売却地”と書かれた看板もすっかり錆びついてしまっているその場所。毎日その前を通っていたが、存在を疑問視したことはなかった。 「なんでって、売れないからじゃないの?」  ユリナちゃんが何を求めてそんな質問をしてくるのかわからない。ひとまず私が当たり障りなく答えると、“だからさあ”と彼女は眉を跳ね上げた。  どうやら、返事の仕方を間違えたらしい。 「鈍いな、そういうこと言ってんじゃないわよ。なんで売れないのかって、そう話してんの。察しなさいよ」 「ご、ごめんなさい」 「まあいいけど。エマが空気読めないのなんて今に始まったことじゃないし」  空気が読めない。そう言われることは珍しくなかったが、私はこの言葉が苦手だった。  空気なんて目に見えないもの、どうやって察しろというのだろう。  大体、察して欲しいならなんではっきり口に出して言わないのだろう。私だって言葉にしてもらえれば通じるというのに。何も言わずにわかってもらおうなんて、そっちの方が傲慢ではないか。  まあ、そんなこと思っても、ユリナちゃん相手には口に出せないけれど。 「……なんでって」  売れない理由なんか、自分が知るわけがない。それでも私は草の隙間を覗き込みながら言ったのだった。 「……事故物件だから、とか?昔、ここにお屋敷でも建ってて、人が死んでるから、みんな怖がって近寄らないとか」  ユリナちゃんはオカルトが好きだから、こういう方向に持っていけば喜ぶだろうとの考えだった。案の定、彼女はあっさり機嫌を直してみせる。 「でしょ?そうだったら面白いって思ってんのよね!なんかいいネタ落ちてないかなー!エマもさ、わかったら教えてよ、ね?」 「う、うん……」  空き地から私達のマンションまで、そこまで距離が離れているわけでもない。  彼女は、ご近所に忌み地があったら嬉しいのだろうか。その心理は、私にはどうしても理解できないものだった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!