卒業間近の自転車

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「早紀、今日も行くの? インフルはやってるから家で勉強すればいいのに」 「大丈夫だって。教室にふたりぐらいしかいないし。いってきまーす!」 母のいってらっしゃいの声を背に私は玄関を飛び出し、自転車にまたがった。向かうは高校、私は3年生だ。 1月の始業式を終えたあとは自由登校だから、本来なら学校に行く必要はない。 自習用に開放された教室で自主学習するだけ。 腕時計で時刻を確かめる。7時23分、定刻だ。このままペダルをこいであの高架橋に向かえば間違いない。 頬を指す冷たい空気も嫌いじゃない。だって気持ちがしゃんとするから。それに体が温まればそれもむしろ気持ちいい。 途中の信号でひとつ引っかかったけれど、それも織り込み済みだ。 目の前に坂が迎え出る、どうだ、君は乗り越える気はあるのか、と問われるように。 手前の直線で助走をつけて、できるだけスピードを落とさずに頂上に近づける。 最後の3メートル、ほら、後ろから聞こえてきた。 電車の音。3、2、1。 ちょうど頂上で電車と交差した。7時28分発のあの車両に春田は乗っている。 ペダルをこぐ足を止め、惰性で坂を下りながらその電車を見送る。 今日もいいことありますように。 *-*-*-*-* 普通に登校する徒歩の1、2年生の群れを追い越し、私は自転車置き場に到着した。 3年生の昇降口にはほとんど生徒はいない。でも春田はいた。さっきの電車を降りて徒歩でやってくる。 「おはよ、春田くん」 「お。斎藤も来たのかよ」 「来ちゃ悪い?」 「悪くねーけど、よくもない」 「なにそれ」 ふ、と鼻で笑う春田。同じ3年2組の生徒だ。奴は国立志望だからこれから2次試験が控えている。 私は既に私立の大学に合格しているから、もう勉強も必要ないのだけれど。 友だちの那奈がまだ決まってないから、一緒に自習している体で学校に来てる。
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