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春田はぽんと靴を靴箱において、黒のバックパックを背負いなおす。上履きをひっかけるようにはいて、廊下を歩く。後ろからその姿を眺める。まっすぐな黒髪、上にぴょんと伸びたアホ毛が春田の動きにあわせて踊る。紺地にブルーのチェックが入ったマフラーがふわふわと揺れ、楽しそうだ。
そんな瞬間にも私は胸が痛くなる。
あと少し。もう少し。そばにいたい。見ているだけでいい。
春田の第一志望が決まれば、離れ離れになるのだから。
教室に着いたら、それぞれの席で問題集を広げる。そのうちに那奈が入ってきてに少し賑やかになる。
席をくっつけて那奈と二人で英語の勉強を始めて、教室に響く音がペンを走らせる音と紙のめくれる音だけになる。
親友の那奈は2年生の男子と付き合っていて、その彼と登下校するのが目的で自主学習にやってくる。
那奈の幸せそうな顔を見ていると、私も男子と付き合いたいなー、と思うこともある。
那奈も卒業したら年下の彼とは離れ離れになる。それでも楽しいよ、って言うから。
でもそれは、その彼が那奈の後を追って、同じ大学に行くって言ってるから。
東京の国立大を狙う春田と、地元の私立大に決まっている私とでは、進路が違う。春田は決まれば上京して一人暮らしを始めるし、私は大学の寮に入ることが決まっている。
付き合って、ときどき会うことは可能だけれど、それでは春田を縛り付けてしまいそうで、私は怖かったし、そもそも片思いなのだから、無理なのだ。
あと少しの間、片思いでいさせてください。それだけで、いい。
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