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そこは廃墟と化した地下駐車場だった。塗装が剥げた車が所々に存在している。壁にはペンキで描かれたグラフィックアートが存在し、治安の悪さを際立たせていた。どこからか尿の香りと混ざる血の匂い。死の香りのするここで私はその戦いを見守ることしか出来なかった。生きるか死ぬかのデスゲーム。ルールは無し。命をかけた借金返済。
「外国かよ……」
「日本も別に変わらねぇだろ。銃刀法違反とか言いながらチャカはあるし日本刀もあるだろ、それと同じだろうな」
紺野が作ったらしい人身売買の場や桐野が作り出そうとしているこの決闘場も日本で行われていることなのか? と考えてしまうほどにリアリティに欠けた。だが桐野の言うように日本は臭いものには蓋をするタイプの国だ。正義が潤沢に整備されているとは思えない。政治家やVIPが未成年を一室に監禁し、売春していたあの事件は今どうなっているのか?
「……そういやぁ桐野、君後頭部いい感じになってきたな」
「あぁ、まぁな。刺青入れる前に行っていたコンビニのおじちゃんに舐められなくなった」
「ははっ。いい具合だな」
暗がりの地下駐車場に巨大な灯りを持ち込み、即席の決闘場を作り上げていた。それはまさに外国の裏社会のようなダーティーさがあり、飛び交う日本語の野次でどうにか母国だと理解できる。
その野次馬が周りを囲む場所でファイトポーズを掲げるふたりの男性がいる。上半身裸に汗を垂らしながら、懸命に相手を殺そうと必死だ。
「おまえは刺青彫らないわけ?」
「必要ないだろ」
「……心機一転するにはいい」
「なら尚更必要ない。気分を変えたきゃ男のちんこ咥える」
「ヤクやるって言わないだけマシだな」
くつくつ、と桐野が笑う。その笑い声に私まで笑ってしまっていた。暗がりで吸う煙草。先端がオレンジ色に染まっている。
桐野は桂木に命じられた仕事を着々と。私も滞りなく仕事をこなしていた。数人、拷問の末に殺していた。心が擦り減っていたが、手を止めることは許されない。桐野もそうだろう。
桐野は忙しいのか私の家に帰ってくることが減っていた。風呂場は血塗れだから好都合だった。だが、私の躾がよかったのかポテンシャルが高いのかは判断がつかないが私の食事だけは必ず冷蔵庫に入っているのだ。作り置きが何品もタッパーに入って置いてある。風呂場を開けた形跡は無いのが救いだった。
「君、最近寝てないだろ」
「おまえも肌くすんでるぞ」
「……色々とあるんだよ」
「ならこっちにも訊いてくんなよ」
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