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未緒とは小学校に上がる前からの長い付き合いであり、ただの幼馴染。
桃色の艶のある髪に、華奢な体格からよく女子に間違えられることが……確かに、そこら辺に居る女子よりも可愛いとは思う。
ただの幼馴染みの関係――それ以上、同性の友達である俺は望んではいけないと思っていた。
本格的な思春期、中学を迎えるまでは。
「……ひゃあっ!」
夜間、耳元で小さな悲鳴が耳を擽った。
同じ部屋、同じ空気に同じ寝床を共有している中で突然……いや、正確には三十分ほどから心臓のバクバク音が落ち着き気がしない。
学校を終えた週末。
だたの友達である泊まりと題して俺の家に来ていた未緒は雷に怯えた声音のまま、俺の腕をパジャマごと引っ張っては続けた。
「いっ、今近くに雷落ちたよね⁉」
「大丈夫。光ってから音がするまで時間が掛かってたから、意外と遠い」
「で、でも……」
何か言いたそうな未緒は口をもごもごとするだけで、そこからの反論はない。どうやら納得してくれたらしい。
「……慎くんは雷、怖くないの?」
「まあ。もう、高校生だし」
「うっ。それだとおれが小っちゃい子って言われてるみたい……ひっ!」
再び窓の外が光っては雷が落ちる。
幼い頃から雷に対して変わらない反応、可愛い。
一人称に至っては最近唐突に僕からおれにクラスチェンジしたがまだ言い慣れていない感が凄くて、何というか尊い。
「むぅ。慎くんってば、人が怖がってるのに笑うなんて酷いっ!」
「ごめん。……こうすれば、少しは怖さは軽減される?」
それは無意識だった。俺の左手が未緒の右手を包む。所謂、手繋ぎってやつをただの男友達にやってしまった。
「あっ……うん。慎くんの、硬くて大きいけど、凄く、落ち着くね」
「えっ?」
ふ、深い意味はきっとない。
というか、あってたまるか。だって、俺と未緒はただの幼馴染であって同性だからそんな関係を望んではいけない。
……いや、出来れば俺だって未緒ともっと――。
「さ、さあ。もう寝よう!」
そう、これはただの添い寝だ。
例え、隣に好きな人がいても叶わぬ恋であることはもう何年も前から知ってる。
――と、刹那。未緒が俺の頬を両手で包んだ。
「っ、未緒……?」
「……どうして」
「え?」
ぎゅっと未緒の両手に力が入ったのを感じる。もしかして、怒って……?
「……もう、馬鹿。――意識してよ、慎くん」
「は? 馬鹿って……えっ、てか意識って!?」
プチパニック。
まさか未緒から直接そんな単語を言われるなんて思わなかったし。つか、まるでそれだと……。
「えっ! ええっと、な、何でもないよ。……お、おやすみぃ!」
勢いのまま逆方向を向かれた。わかりやすくも明らかな動揺。
嗚呼、愛おしい……じゃなくて!
ここでおちょくるような悪足掻きの追求をしてもいいが、正直嫌われるのは出来れば避けたい。
「……おやすみ、未緒」
深くは問わない。今の関係を保つなら、これに限るだろう。だって俺たちはただの幼馴染で同性の友達、それ以上は何もないのだから。
それでも、これだけは。こう思ってしまうことだけは許してくれ。
「好きだよ、未緒――」
今も、これまでも。これからも、ずっとお前の側にいたい。この気持ちを素直に伝える未来に、賭けて。
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