9人が本棚に入れています
本棚に追加
私について
私は、前世の記憶を持っている。
私は前世で一国の姫だった。
フロリア王国の姫、名前はアリア。サファイアを象嵌したような青い瞳、太陽に輝く金色の髪、新雪のような蒼白い頬に咲く薔薇色の唇。作り出される造形すべて、消え入りそうなほど儚げな、天使のような美しいお姫様。
……と言われていた。そういった噂というのは、自然と耳に入ってくるもので、私が決して公言したわけではない。ともあれ、私は世間知らずのお姫様で、城の中でダラダラと自由気ままに平和に過ごしていた。
だから、革命なんて起こるとは思わなかったのだ。
あの日は少し暑かった。昼下がりの紅茶を飲む時間、それは起こった。
城を揺らす爆音、野太い群声。城では決して聞くことのない異様な不協和音は、私の日常を終わらせるのに十分すぎるものだった。
何が起こったのかわからず、逃げろという侍女の言葉に従って走った。そこかしこに聞こえてくる断末魔、瓦礫で人が潰れる音。現状を構成するすべての音が、徐々に恐怖という形を成して、身体を蝕んでいった。
あの日、走りながら私は悪夢を見ていると、本当にそう思っていた。
だって私は何も悪いことはしていない。両親は優しくて、侍女たちは私を甘やかしてくれて、少し前に自分の護衛役になった年上の男性と恋人になって、手を繋いで、キスをして。幸せだったのだ。
でも今になって思う。あの時、私はなんて傲慢だったのだろうか。
国民全員が私のように幸せのはずだと勝手に思っていたのだ。
気が弱かった私の父は、貴族との波風が立たないようにと弱腰で、国は乱れ、民衆は貧困で苦しんでいた。それなのに私は知りも知ろうともしなかった。
それは後に革命軍に捕まった時に聞かされた話。
私は、そのまま斬首刑にされ命を落とした。
私が十七歳の頃だった。
最初のコメントを投稿しよう!