さようなら

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「ずっと後悔していた」  ぐっと彼は私の手を握り返した。 「俺は確かに革命軍の仲間で、あんたに近づいたのも、革命を成功させるためだった。けど、あんたは外の世界のことなんか知らなくて、素直で、純粋で、俺を、慕ってくれた」  握る力がだんだんと強くなる。その度に公園の蛍光灯の光が彼の顔に暗い影を落とす。 「あの日、せめてあんただけでも助けたかった。王さえ殺せば、きっとあんただけは助けられると。けど、仲間の興奮と暴走で、俺の声は届かず、あんたを死なせちまった」  “アリア”は静かに彼の言葉を聞く。 「ごめん。ごめんな、アリア」  “アリア”は小さく首を振る。 「俺は、昔も今もずっと……」  熱を帯びた彼の瞳が、“アリア”にも移ったかのように潤んだ瞳で彼を見上げる。 「アリア、あんたを愛している」  私は、静かに涙を流した。  流れた涙は決して喜びからではない。  悔しさで、涙を流したのだ。  私は、”(れい)”よ。  ”アリア”じゃない。  あなたはずっと、私を通して”アリア”を見ているのね。  悔しいな。私も、あなたを愛しているのに。  その言葉は私に向けられたものじゃない。 「俺はあんたに会うために、この記憶を持って生まれたんだ」  彼は、“アリア“の頬に触れ、そのまま唇を奪う。唇を甘く食まれ、薄く開いた口から濡れた舌が強引に捻じ込んできた。舌を絡めとられ、口内を貪り尽くされる。深い口づけとそれによって齎された甘い疼きを感じるのに、それを与えられているのは”私“ではない。  ──嬉しい。ずっと、ずっと、あなたの本当の気持ちが知りたかったの  ──私も、あなたを愛しているわ  ”アリア”が歓喜で震えている。  私は”滝川 零(たきがわ れい)”として深夜が好きなのに、私のこの想いは今の彼には届かない。  それでも  アリアじゃない私が、彼と一緒に生きていきたいの。  そう思った時、前世の記憶が薄れていくのを感じた。  私はそれを、受け入れる。  ごめんね、アリア。またあなたを死なせてしまう。  ──いいえ。本当なら私はこの言葉を聞けるはずがなかったの。それなのに私が、あなたの人生の邪魔をしてしまった  そんなこと思ってないよ。この記憶があったから、彼にも出会えたの。  ──ごめんなさい。だけど、ありがとう  ──さようなら  美しかった、愛おしかった日々の記憶がさざ波に飲まれるように、ゆっくりと消えていく。  アリアが消えていく。  記憶がなくなった私を、彼はどう思うだろうか。  ぽっかりと穴が広がる。  大切だったのに、もうそれが何か思い出せない。  瞼の裏に微かに残る、黄金の髪の女性が私に微笑みかけた。  ──がんばって  その言葉に、私は頷く。  きっと彼女を消したのは、私が彼と前へ進むためだから。
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