前世のバラ園

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前世のバラ園

『みんなあんたを天使に例えるが、俺は違うと思う』  美しく咲き乱れる宮殿のバラ園で、いつものように二人で寄り添って座っていると、ギーヴが唐突に話し始めた。 『なぁに。もしかして悪口?』  天使と言われていたことは知っていたし、恥ずかしいと思っていたが、否定されるとそれはそれで傷つく。不満を表すようにわざと頬を膨らませると、ギーヴは笑って、私の頭にそっと手を置いた。 『ちげぇよ。天使みたいな遠い存在じゃないって話だ』  私の頭を撫で、そのままギーヴは私の顎に触れて軽く引き上げた。僅かに唇に触れる武骨な指が、思考を奪うほどの熱を齎す。 『庭を裸足で走り回るし、勉強はサボるし、勝手に宮殿から抜け出す。天真爛漫で、俺の気苦労が絶えない。どうにも天使なんていう清らかさからは遠い』 『やっぱり悪口……んッ』  不満を言おうとした時、遮るように唇が重ねられた。そっと撫でるような優しい口づけが角度を変えて幾度も降ってくる。彼の唇を感じたくて目を閉じるが、一瞬離れた唇は名残を惜しむ間もなく、今度は頬に押し当てられた。彼が触れる場所すべてが敏感になって私の身体の自由を奪う。漏れた熱い吐息で、身体が溶けそうだ。  ギーヴは私の髪を掬い、撫でるように耳にかけた。 『見たこともない天使なんかより、地上で人を魅了する花々の方が合ってるって言ってんだ。花が咲くように日に日に綺麗になって、時々手折りたくなる』  私を見つめる冬色の瞳に、怪しい光が差す。ギラギラと獣のような眼差しで見つめられ、本来であれば恐怖に感じるはずが、私はそれを嬉しく思ってしまう。  私はもう一度そっと目を閉じた。
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