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そして現世へ
アドレスを交換した日から頻繁にギーヴから連絡がきた。
今のギーヴは中学三年生で、文化祭にきたのは私の高校を受験しようと思って見学にきていたらしい。
最初は連絡が来ても無視していたが、彼の強引さに段々と根負けして、結局放課後も休日も一緒に過ごしてしまっている。
ギーヴはきっと、前世の記憶を話せるのが楽しくて安心するのだ。
誰も共有できない、話せない、この記憶はとても重い。
だから私も彼と話をするのが楽しくて、文句を言いつつも、彼に付き合ってしまうのだ。
けれどあの日、革命の日のことはお互い一切触れない。
触れたら、名前も付けられないこの穏やかな関係が終わってしまうような気がするから。
今日も私はギーヴと一緒に出掛けていた。周りが暗くなり公園のベンチで休憩をしていると、ギーヴは公園の真ん中にある噴水に目を向けた。噴水の周りには多くのライトピンクのバラが咲き乱れていた。
「なあ、覚えてるか? あの花、あんたが好きな花で宮殿の庭園にも咲いていたよな」
ギーヴは懐かしそうに目を細めた。この瞬間はどれだけ顔が違っていても、前世のギーヴと姿が重なる。だからなのか、昔の想いが私の鼓動を速くした。
「ええ、覚えているわ。その庭園でよく二人でお茶してたわね」
何度もお茶をして、何度も隠れてキスした場所だ。今思い出すと死ぬほど恥ずかしい。しかし隣に座る男は楽しそうに笑顔を浮かべた。
「そうそう。あんたはテーブルに色んなケーキを並べて、目をキラキラさせてた」
「だって、どれも美味しそうなんだもの。一つを選ぶなんて作ってくれたパティシエに失礼だわ」
「そう言い訳して、全部食べてたっけ。んで太ったって騒いでたな」
むっと頬を膨らまし、ギーヴを見上げる。
そこで彼と目が合い、息を呑んだ。
あまりに優しく、愛おしそうに、私を見下ろすから。
身体も視線も、呼吸でさえ、彼に捕らわれる。
ギーヴはそっと私の頬を包み込んだ。
「変わってないな、その癖」
彼は少し笑って頬を撫でた。撫でた片方はそのまま後ろ髪に回し、もう片方は私の腰を掴み強引に引き寄せた。もう彼から逃れられない。
「アリア」
愛おし気に呼ぶ、私の名前。
熱の籠った瞳が閉じ、ギーヴの顔が近づいてくる。
前世の記憶の再現のようで、私も過去の想いに引きずられる。
私は、またそっと目を閉じた。
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