さようなら

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さようなら

 深夜は無事私の高校に合格し、それからは自然と二人の時間も多くなった。放課後は一緒に帰って、休日はデートをして、会えない日は電話をする。何気ないそんな毎日に私は幸せを感じていた。  それから一年、私は高校三年生になって大学受験を迎えた。もうその頃には、あの時襲った違和感の正体には気づいていた。  志望大学に合格した私は、いつか前世の話をした公園に深夜を呼び出した。  夜になり、噴水のみが月明りで輝く。バラはもう、枯れていた。 「おめでとう、アリア」  私に会って、一番にくれる祝いの言葉。私はたぶん、うまく笑えていなかったと思う。深夜は心配そうに眉尻を下げ、私の手を取り、気遣うようにベンチに座らせた。  大丈夫か、と私を気に掛ける優しい声にも、うまく答えられない。ずっと下を向いて答えない私を深夜が覗き込む。ギーヴとは違う、黒い瞳が私の姿を映した。  そうだ。私は、”滝川 零(たきがわ れい)”だ。  私はぐっと目を瞑った。深い闇が、今の私に勇気をくれる。 「あの日のこと、覚えている?」  あの日。それがいつのことを指すのか、私たちだけが知っている。  深夜が息を呑んだのがわかった。  いつも深夜から聞いていた前世の話。私から聞くのは初めてだった。  夜の寒さを集めたような冷気が一気に襲ったように感じた。震える手をもう片方の手で抑え込む。 「……ああ、覚えている。あの日は、暑かったな」  緊張した、強ばった声で深夜は呟く。共鳴するように心臓が忙しなく動いて、息が詰まった。 「ねえ、深夜」  私は震える手でそっと彼の手を握る。彼の手は、外気に晒されて陶器のように冷たくなっていた。私はゆっくり顔をあげ、一番聞きたかった言葉を口にする。 「”私”のこと、愛してる?」  滲む視界に愛おしい彼の姿が映る。  しばらく彼の言葉を待っていると、ようやく彼の唇が動いた。
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