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寒い寒い夜の道を走った。
あてもなくただただまっすぐに。
転んでも走った。それこそ疲れきって、このまま全部僕もなくなればいいのにと、思った。
また転んでしまった。
もう起き上がる気力がないや。
そう思ったときに気づく。
あの空き地に、建物が建っていることに。
瓦屋根の古風な1階建ての建物。スタンド看板には『立入禁止』ではなく、『スノードームボールペンショップ 』と可愛いらしい文字書かれている。小さなガラスのショーウィンドウが目に入り、僕は起き上がり、何となくそこに近づく。そこには、五つのスノードームのボールペンが飾られてあった。
僕が気になったスノードームボールペンはウサギ型のガラスドームになっている。ウサギの顔に当たる丸みを帯びた部分の中はぽつんと佇む小屋には綺麗な雪景色が広がっている。うさぎの耳を押せば描ける、ノック式タイプのようだ。
「きれい」
「……そのボールペン、気に入りましたか?」
突然後ろから声がして、僕は驚いて振り返る。
帽子を深く被って、顔を隠している背の高い人がそこにいた。
声とスーツ姿で男性だと分かる。
僕はじっと彼の頭を見た。
手品師みたいな男性の被る帽子の中が、一瞬もぞもぞと動いたのを、僕は見逃さなかった。
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