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「……店員さんですか?」
帽子の中を深く追及するのは怖いから無視することにして、恐る恐る、僕は男性に話しかける。
「はい。いらっしゃいませ」
店員は顔を隠したまま、穏やかに挨拶をする。
「こ、こんにちは……」
僕は奇妙な店員に頭を下げたあと、そっと帽子の中を覗きこんだ。しかし店員は、さらに帽子を深く被り、やはり顔が見えない。
「わたしのお店にあるボールペンはお売りする人を限定しています」
「そうなんですか?」
「そのボールペンはオススメですよ。あなたにならお売りしてもいいですよ。いえ、一本、お譲りしますよ」
それを聞き嬉しくなったが、顔の見えないこの店員に、僕は戸惑っていた。
その場が少し沈黙になる。
「……ください」
「それなら、中へどうぞ」
店内に入ると、さまざまなスノードームボールペンが並んでいる。
「どれでも一本、好きなのをどうぞ」
店内をまわる。
思わず笑みをこぼしてしまう。
どれも魅力的なスノードームボールペンだった。
でも一通り見て、僕が最終的に手をとったのは、最初に見たスノードームボールペンだった。
「やっぱりこれがいい」
店員の口許が緩む。
「見る目がありますね」
「え……?」
「購入前に確認させて頂きますが、わたしの店にあるスノードームボールペンは、普通の物とは違います」
僕は目をぱちぱちさせてしまった。
「どう、違うの……?」
「文字を書くためのスノードームボールペンではなく、絵を描くためのスノードームボールペンです」
それを聞き、僕はさらにこのスノードームボールペンに興味をもつ。
店員は話を続ける。
「わたしの店にあるスノードームボールペンは使い始めて30分たつとインクが一切出なくなります。使い捨てで、一度きりしか使えません」
「30分……一度きり?」
「はい。そして、同じ人物が二度と私の店に来ることはできません。そちらのボールペンは使うと二度とお渡しできない代物になっております」
「二度とできない……」
僕は驚いた。そんな不思議なボールペンがあるなんて、初めて聞いた。
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