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66 〜綴〜 夕方、道に迷いながらも何とか目的のライブハウスに到着した。 すっかり予定の時間は過ぎている。 出迎えてくれたのはライブハウスのスタッフらしき女だった。 ちょっとリアラさんに似ている。 俺がそんな風に感じていたんだ。井波がそう思わない筈はなかった。 楽屋に通されてから、どうも井波が不機嫌に感じる。 「井波…」 「水買ってくる」 「ちょっ…俺も行くっ」 「あっ!すみませぇ〜ん!如月くん?ちょっと、リハ出来なかったから段取りだけ良いかな?」 リアラさん似の女性スタッフに呼び止められ、井波を追いかけられなかった。 小さな可愛い口が間違いなくとんがってるんだ。 ヤキモチでも妬いてるのかと考えると、俺はギュウッと胸が苦しくなるほどに井波が愛おしかった。 可愛い過ぎるだろ…ぁ、でも違ってたら虚しいな…。 そんな独り言を心で呟きながら女性スタッフの段取りはあまり耳に入らなかった。 何バンドかが演奏を終えて楽屋に戻ってくる中、井波はメイクに集中していた。 鏡越しにその様子を眺めていたら、突然振り向いた井波が俺を睨みつけながらボソリと呟いた。 「こっち見んな」 「冷たい」 「るせぇ…」 鏡に向き直ってしまった井波。 そっと後ろに歩み寄り、スーッと肩を指先で撫でた。 「怒ってる?」 「怒ってない」 「…そんな態度してたら…ライブ中、後悔するからね」 バッと勢いよく振り返る井波。 「もうダメだよ」 意地悪にそう言って俺はその場を離れた。
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