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〜宝〜
滝のような雨の音に混じって聞き慣れたクラクションの音。
携帯を見ても連絡はなくて、俺は心当たりがある人物の携帯を鳴らした。
家の下にいるのは如月。
こんな雨の日に、死のドライブに誘うんだから笑えない。
トントンと足音でさえスマートに聞こえる如月の階段を上がってくる気配にギターを弾きながら目を閉じた。
「何?新曲?」
入ってくるなり濡れた髪を掻き上げる如月。
すぐにそんな彼から目を逸らし、俺はギターのネックを強く握った。
「あぁ〜まぁ、そんな感じ。タオル、それ使えよ。歌詞は?最近進んでないって。」
「うん…ありがとう。歌詞ね、書けそうな気がする。」
如月はタオルで髪を拭きながらニッと形の良い唇を引き上げた。
「また暗いヤツ?」
「井波がポジティブな歌詞書くからいいじゃん」
「…如月の歌詞は…俺と同じだよ」
ジャーンとダウンストロークさせた手を弦にバンと当てて音を止めた。
如月は案の定、首を傾げて「同じかな」と不思議そうに呟く。
だから、素直に返した。少なからず、これは間違いではない。俺と如月は暗闇と光の側面から、ぐるっと回って同じ場所を目指してる。
「大丈夫って…叫んでるから」
「…井波さぁ〜ん…何だか泣けちゃう」
茶化すように話す如月は、肩の力を脱力させて俯いた。長い艶々の黒髪が綺麗な顔を覆ってしまう。
如月はいつも人のあれこれに敏感な繊細さんだけど、今日はより一層そんな部分を強く感じた。
こんな雨の中、俺の家に来たのには、何かあったからだろう。
「………如月…バンド、続けるぞ。東京…行くだろ?」
静かに問いかけると、如月が目を細めてこっちを見た。
一瞬、熱のこもった目をするから、ゴクッと喉が鳴ってしまう。もう何回こんなやりとりを繰り返して来たか知れない。
「うん…行く。井波のギターで歌うのは俺だもん。離れないよ」
あぁ…なんて罪な男だよ。
俺はその目も声も髪も…そのうち誰にも譲れなくなる。
如月は、月のように微笑んだ。
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