12

1/1
前へ
/89ページ
次へ

12

12 〜宝〜 大雨の日に如月が来てから数日が経った。 俺達が程よく働いて貯めた金は、何とか上京するのに足りそうな金額に達した事を、お互いの通帳を見せ合い確認した。 「つづちゃんと井波くん、本当に先に行っちゃうの?」 凪野が相変わらず不安そうな顔でこっちを見る。 正式に東京へ繰り出す話をする為、メンバー全員に集合して貰ったのだ。 「じゃ、そろそろ俺も腹括んないとだな」 鮫島さんがニヤリと笑った。 「仕事は辞める。とりあえず三年だ。三年して芽が出ないなら俺は地元に戻るよ。いつまでも遊んでは居られないからな。」 鮫島さんの出したタイムリミットは、俺からすれば十分過ぎる程長かった。 舟木がモジモジと身体を揺らす。 「ライブ…向こうでするようになるんだよね」 「あぁ…大丈夫。如月が免許あるし、お前達二人は中間地点まで電車でくればすぐ迎えに行ける」 「つづちゃん」 凪野と舟木が如月を見つめる。 如月はニコッと笑い、髪を掻き上げながら凪野の肩をポンポンと叩いた。 「大丈夫だよ。凪野も舟木も居なきゃ始まんないだろ。」 「そ、そうだけど…レコード会社から声がかかったら、売れそうな人だけ引き抜かれたりするって」 「あぁ、そりゃ良く聞く話だな」 鮫島さんが頭を掻きながら頷いた。 「つづちゃんは世界中の人が認めるぐらいの美男子だよ?…正直、俺が業界の人なら絶対にほっとかないよ」 「…大丈夫。絶対解体させない。俺達NOT-FOUNDはこのメンバーでデビューが絶対条件だ。」 俺が言い切ると、如月が俺の頭をグイと引き寄せ肩に寝かせた。 「その通り。井波と俺が言うんだから、心配ないよ」 俺は傾いた視界に目眩を覚えながら、頰が触れる如月の肩にドキドキと胸を鳴らしていた。 次のライブは東京。 いよいよ、夢の戦場だ。
/89ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加