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〜宝〜
大雨の日に如月が来てから数日が経った。
俺達が程よく働いて貯めた金は、何とか上京するのに足りそうな金額に達した事を、お互いの通帳を見せ合い確認した。
「つづちゃんと井波くん、本当に先に行っちゃうの?」
凪野が相変わらず不安そうな顔でこっちを見る。
正式に東京へ繰り出す話をする為、メンバー全員に集合して貰ったのだ。
「じゃ、そろそろ俺も腹括んないとだな」
鮫島さんがニヤリと笑った。
「仕事は辞める。とりあえず三年だ。三年して芽が出ないなら俺は地元に戻るよ。いつまでも遊んでは居られないからな。」
鮫島さんの出したタイムリミットは、俺からすれば十分過ぎる程長かった。
舟木がモジモジと身体を揺らす。
「ライブ…向こうでするようになるんだよね」
「あぁ…大丈夫。如月が免許あるし、お前達二人は中間地点まで電車でくればすぐ迎えに行ける」
「つづちゃん」
凪野と舟木が如月を見つめる。
如月はニコッと笑い、髪を掻き上げながら凪野の肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫だよ。凪野も舟木も居なきゃ始まんないだろ。」
「そ、そうだけど…レコード会社から声がかかったら、売れそうな人だけ引き抜かれたりするって」
「あぁ、そりゃ良く聞く話だな」
鮫島さんが頭を掻きながら頷いた。
「つづちゃんは世界中の人が認めるぐらいの美男子だよ?…正直、俺が業界の人なら絶対にほっとかないよ」
「…大丈夫。絶対解体させない。俺達NOT-FOUNDはこのメンバーでデビューが絶対条件だ。」
俺が言い切ると、如月が俺の頭をグイと引き寄せ肩に寝かせた。
「その通り。井波と俺が言うんだから、心配ないよ」
俺は傾いた視界に目眩を覚えながら、頰が触れる如月の肩にドキドキと胸を鳴らしていた。
次のライブは東京。
いよいよ、夢の戦場だ。
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