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13 〜綴〜 井波の荷物と俺の数少ない荷物を車のトランクに詰め込んで高速道路を走った。 東京で見つけた汚ないそれはそれはボロいアパートに向かう。 井波と同居も考えたけど、家賃を優先すると、あまりにもプライベートな空間が無くなってしまう為、別々に暮らす事になった。 ガッカリ半分、安堵が半分だ。 一緒に住んだら、俺は何かを壊すかも知れないから。自制心はそれほど強固に出来ていない。 井波のアパートと俺のアパートは向かい合わせで建っていた。 お互い窓から向かいの部屋が見えるから、離れて暮らす感覚は薄い。 夜になると、明かりがついてホッとする。 その時だった。 ゴソゴソッと音がして、黒光りする物体が部屋の隅から隅に向け猛ダッシュして行った。 「…っっ!!」 間違いない。 ゴキ○リだっ!! 俺より先に住んでたっつーのかよっ! 信じらんねぇっ! つーかマジで勘弁っ!! 虫、得意じゃないんだよっ!! 気づいたら井波の部屋のドアをノックしていた。 「はーい…って何?さっき別れたばっかじゃん」 「いやぁ…それがさ、ホラ…出たっ!」 井波は眉間に皺を寄せる。 「はぁ?」 「だからっ!出たんだよっ!ゴキがっ!」 玄関扉のノブを掴んだままフリーズしていた井波は「はい、了解でーす」と扉を閉めにかかった。 「わぁ!待て待てっ!俺、今、殺虫剤とか持ってないからっ!」 「はぁ?んなもん、紙丸めてバァンと行きゃ良いだろ?疲れてんだよ。もう寝ようぜ」 「そ、そうだな!寝よう!お邪魔しまーす」 「ちょちょちょっ!如月の家はあっちだろっ!!」 「今日だけ泊めてっ!明日殺虫剤買ったら帰るからっ!もうこんな時間だしさっ!俺も運転と引越しで疲れてんだよ!」 井波は垂れた目でジーッと俺を睨み、あからさまに脱力した。 「…今日だけだからな」 「うん!助かるっ!」 というわけで、俺は自ら自制心に鉄球でもぶら下げないと収まりがつかない事態を作ってしまった。 夏の始まり。 敷布団はない。 タオルケット一枚を腹に掛けてフローリングに寝そべっていた。 隣では布団に横たわる井波。 寝返りを打って、その姿を見ようとしたら、バッチリ目が合った。 「ね、寝ないの?」 ぎこちなく問いかけると、井波は自分の掛けているタオルケットをめくり、呟いた。 「フローリングは痛いよ。…こっち、狭いけど」 その言葉に、バクンと胸が高鳴る。 「だ、大丈夫」 「大丈夫じゃねぇだろ」 「…いいの?」 「仕方ないからだ」 井波がプンプンするもんだから、俺は苦笑いしながら、敷布団に入った。 狭いシングルの敷布団に背中合わせ。 バクバクと鳴る心音を聞かれまいと、思い切って振り向いた。 「っ!」 ちょうど井波もこっちに寝返りを打ったところで、ビックリするくらい近い距離で目が合う。 井波の垂れた目が、暗闇でパチパチと瞬いた。
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