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14 〜宝〜 絶対に家に入れてはいけない…なんて、不可能なルールを決めた矢先に如月は俺の家に乗り込んで来た。 ゴキが出たから泊めてくれという流れから、何故か夏が始まる蒸し暑い部屋で男二人がシングルの敷布団にキュウキュウになっておさまっていた。 背中合わせの皮膚が暑くて、寝返りを打つと、如月も同じタイミングでこちらに向いた。 電気を消しているからハッキリ表情が見えないかと思いきや、目鼻立ちの整い過ぎた如月の横たわった顔は良く見えた。 俺は冗談ぽく呟く。 「…何だよ…この距離」 如月は苦笑いしながら「恋人の距離だな」と言う。 「笑えない」 「笑えない?」 如月の長い指が俺の頰にかかった。 俺はその手を握って制止させる。 コツンと額を押し当て呟いた。 「新しい歌詞…どんなの出来てんの?」 如月は顎を引き、俺を見つめる。 「 ♪ 月冴ゆる音に君を求めても 声冴ゆる夢に愛はないままで Ah この血潮に君が流れるのを知っている A h メリーゴーランド 廻れば溶ける愛 ほのめかす 幻想の恋物語 ♪ 」 囁くように唄う如月に、俺はウットリと目を閉じた。 そうしたら、唇のすぐ側にキスされて、ビックリして目を開く。 前にも俺の部屋でこんな事があった。 如月は切羽詰まっていて、バンドをやめるかも知れないなんて言ったあの日だ。 俺はあの日、感情が昂り過ぎて如月にディープキスをした。 もの凄い後悔は、如月の何でも無い態度によって帳消しになった。 「ライブでもないのに、如月は良く絡んでくるなぁ」 クスクス笑いながら呟くと、「嫌?」と聞くもんだから、ジッとその綺麗な目を見つめた。 それから、何も言わずに首筋に顔を埋めた。 「ぃ…井波?」 「…眠い…」 「…うん」 「ホームシックだわ」 「初日だよ?」 「ばあちゃんが恋しい」 プッと吹き出した如月が、俺の髪を撫でながら、頭を引き寄せ抱きしめた。 俺はそれが心地良くて、目を閉じる。 「甘えん坊…」 「じゃあ甘えなきゃ損だな」 「ハハ…違いない」 俺達は、少し汗ばむくらい暑いのに、相手の思いや理由もわからず抱き合って眠った。 東京に出て来た初めての夜。 本当はお互いに心細く、センチメンタルな夜だった。
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